君子の道は、時代・人心・天地を貫いて普遍にして不滅。
目次
■引用原文
故君子之道本諸身、徴諸庶民、考諸三王而不繆、建諸天地而不悖、質諸鬼神而無疑、百世以俟聖人而不惑、
質諸鬼神而無疑、知天也、百世以俟聖人而不惑、知人也、
是故君子、動而世為天下道、行而世為天下法、言而世為天下則、
遠之則有望、近之則不厭、
詩曰、在彼無悪、在此無射、庶幾夙夜、以永終誉、
君子未有不如此、而蚤有誉於天下者也。
■逐語訳
- だから、君子の道はまず自分自身に立脚し、
つぎに庶民の暮らしに照らして検証され、
さらには三王(夏・殷・周)の治績に照らしても誤りがなく、
天地の理に照らしても道理に反しておらず、
鬼神に尋ねても疑いがなく、
さらに百代後の聖人から見ても迷いがない。 - 鬼神に問うて疑いがないとは、天の理を知っているということ。
百代後の聖人に問うて迷わないとは、人の理を知っているということ。 - したがって君子は、
その動作がすなわち天下の「道」となり、
その行動がすなわち天下の「法」となり、
その言葉がすなわち天下の「則(模範)」となる。 - 遠くからでも敬われ、近くにいても飽きられることがない。
- 『詩経』にはこうある:
「かの地にあっても悪しとされず、
この地にあっても嫌われることがない。
願わくは、朝夕たゆまず励み、
永くその誉れを保たんことを」 - 君子というものは、かくのごとくの道を踏まねば、
早くして天下の誉れを得た者などいないのである。
■用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
三王 | 夏の禹王、殷の湯王、周の文・武王など。理想的な古代王政を象徴する。 |
繆(ぼく) | 誤る、間違えること。 |
悖(はい) | 背く、反する。天地の理に反しないことが重要。 |
質 | 問う、照らす、尋ねる。 |
百世 | 百代、すなわち遥か未来。 |
知天・知人 | 天の理(自然法則や神意)と人の理(人情・社会秩序)を知ること。 |
道・法・則 | 原理・制度・模範。個人の行動がそのまま時代の規範になる。 |
在彼無悪、在此無射 | 『詩経』からの引用。遠くにいても悪く言われず、近くにいても疎まれない。 |
夙夜(しゅくや) | 朝から晩まで。常に努力を怠らぬさま。 |
終誉 | 名声を永久に保つこと。 |
■全体の現代語訳(まとめ)
君子(理想的指導者)の道というものは、
まずは自らの心身に根ざし、
ついで現代社会における庶民の在り方と照らし合わせ、
さらに歴史的な聖王(夏・殷・周)の行いと突き合わせて誤りがない。
またその道理は、天地自然の法則にもかなっており、
霊的存在(鬼神)に尋ねても疑いがなく、
未来のいかなる聖人に問われても揺るがぬ普遍性をもつ。
これを天の理と人の理、双方に精通しているという。
このように内に誠が備わった君子の言行は、
そのまま時代の道となり、法となり、模範となる。
遠方の人びとは仰ぎ、近くの人びとは決してそれを煩わしく思わない。
『詩経』も、「遠くにいても嫌われず、近くにいても倦まず、
朝夕励んで永遠にその誉れを保つこと」を理想としている。
このような努力と誠の道を踏まずして、
若くして天下に名をとどろかせた君子など存在しないのだ。
■解釈と現代的意義
この章は「君子の行い」が時代を超えて法・道・模範となるという、
極めて普遍的なリーダー像を描いています。
観点 | 現代的意義 |
---|---|
倫理性の確認 | 自らの言動は、身近な人々のみならず、歴史・自然・神意・未来の判断基準に照らして問われる。 |
スケーラブルな行動 | 行いと言葉が、一個人の枠を超え、社会や歴史に「型」として残る。 |
リーダーの責任 | 指導者とは、法の制定者でなくても、その行動が法のような影響を及ぼす。 |
永続する評判 | 一時的な名声ではなく、「百世をもって俟つ」ほどの長い視点で行動すべし。 |
■ビジネス応用の心得と個別解説
- 制度設計や行動基準のモデルとしての自分
→ 組織において君子たる者は、「制度で縛る」のではなく「行動で示す」ことが求められる。 - 内部監査と自己点検の多元基準
→ 自分の行いを、現代の顧客(庶民)、過去の偉人(歴史)、自然・科学(天地)、哲学・宗教(鬼神)、未来の評価者(百世の聖人)に照らして確認すべき。 - 距離による信頼性の保持
→「遠くからも信頼され、近くでも慕われる人」とは、感情に依らない一貫した誠実さと普遍的合理性を持つ。
■まとめ心得一句
「道を測るに五鏡をもってす:己・人・古・天・未来」
――身近な実務から未来の歴史評価までを想定せよ。
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