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■引用原文
子曰、「愚而好自用、賤而好自専、生乎今之世、反古之道、如此者、及其身者也。
非天子不議礼、不制度、不考文。今天下車同軌、書同文、行同倫、
雖有其位、苟無其徳、不敢作礼楽焉。雖有其徳、苟無其位、亦不敢作礼楽焉。
子曰、吾説夏礼、杞不足徴也。吾学殷礼、有宋存焉。吾学周礼、今用之、吾従周。
王天下、有三重焉、其寡過矣乎。
上焉者、雖善無徴、無徴不信、不信民弗従。
下焉者、雖善不尊、不尊不信、不信民弗従。」
■逐語訳
- 先生は言われた。「愚かで徳もないのに自己判断で動きたがり、地位が低いのに自己専断したがり、現代に生きながら古代の制度に逆戻りしようとする者は、結局は身を滅ぼすものである。」
- 天子でなければ、礼を論じてはならず、制度を定めてはならず、文字を改革してはならない。
- 今や天下は、
- 車の幅は統一され、
- 文字も統一され、
- 人びとの倫理も統一されている。
- たとえ位があっても、徳がなければ、勝手に礼楽を制定してはならない。
また、徳があっても、位がなければ、同様に礼楽を制定してはならない。 - 先生は言われた。「私は夏の礼を語るが、杞国には十分な証拠がない。
殷の礼については、宋国にその伝承が残っている。
周の礼は今まさに行なわれており、私はこれに従おう。」 - 天下を統治する者には三つの重要条件がある。
それらが揃えば、誤りは少なくなるだろう。 - 古い礼であっても、たとえ善であっても、証拠がなければ信用されず、信用されなければ民衆は従わない。
- 新しい礼であっても、たとえ善であっても、位(権威)がなければ信用されず、信用されなければ民衆は従わない。
■用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
自用・自専 | 自分勝手な思考・判断。儒家では謙虚な学問・礼に基づく行動が理想とされる。 |
及其身者也 | 結果的に自分の身に災いが及ぶ。 |
非天子不議礼 | 「礼」は国家制度であり、君主以外が勝手に論じるべきではない。 |
車同軌・書同文・行同倫 | 国家統一の象徴的制度整備。秦の統一政策を想起させる言い回し。 |
徴 | 実証・証拠。礼の正当性や伝承の裏付けとなるもの。 |
三重 | ①徳(至徳)、②位(尊)、③時(徴)の三条件。これがそろって礼を制定できる。 |
民弗従 | 民衆は従わない。儒家では礼・徳に基づく統治こそが人民を動かす鍵。 |
■全体の現代語訳(まとめ)
儒家の礼は、誰かが勝手に作ってよいものではない。たとえ徳があっても、地位がなければ制定すべきでない。逆に、地位があっても、徳がなければこれまた危うい。さらに、どれほど立派に見える制度も、時代に合っていなければ民は従わない。
孔子自身、「今の世で用いられている周の礼に従う」と語ったのは、制度改革の根拠が「時に即していること」だったからである。
つまり、制度を動かすには、徳・位・時の三重条件が必要である。これが揃っていれば、礼楽の制定にも誤りが少なくなる。
逆に、徳なきものが勝手に動き、地位なきものが制度をいじろうとすれば、混乱が起き、ついにはその身を滅ぼすのである。
■解釈と現代的意義
本章は、制度改革・ルール作りの正統性条件を説いており、現代の企業経営や国家政策にも深く通じる思想を提供しています。
観点 | 現代的意義 |
---|---|
徳(能力・見識) | 改革を提案する者は高い見識と徳が問われる。 |
位(ポジション) | 組織上の権限・責任の明確さがなければ、改革は混乱を生む。 |
時(タイミング・状況) | どれほど良いアイデアでも、時流・環境に適応しなければ民(顧客・社員)は従わない。 |
また、古い制度に固執したり、時代錯誤のやり方を盲信したりする危険性も、強く戒められています。
■ビジネス応用の個別解説付き心得
- 制度改革の注意点
→ 善き制度(理念)があっても、正しい立場と時機がなければ成功しない。 - トップの責任と慎重さ
→ 礼を制定するとは文化を定めること。トップは身をもって徳を示す必要がある。 - 現場の改善提案の限界と協働の必要
→ 位や裁量を持たぬ立場の人が単独で改革を進めるのではなく、上位者と連携し、証拠や時宜を整えよ。 - 「古き良き制度」の取捨選択
→ 礼の学びは重要だが、現代に適応しなければならない。盲目的復古主義はNG。
■まとめ心得一句
「徳なくしては動かず、位なくしては語らず、時を失いては従われず」
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