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■引用原文
大哉聖人之道、洋洋乎発育万物、峻極于天、優優大哉。
礼儀三百、威儀三千、待其人而後行。故曰、苟不至徳、至道不凝焉。
故君子、尊徳性而道問学、致広大而尽精微、極高明而道中庸、温故而知新、敦厚以崇礼。
是故居上不驕、為下不倍、国有道、其言足以興、国無道、其黙足以容。
詩曰、既明且哲、以保其身、其此之謂与。
■逐語訳
- なんと偉大なことか、聖人の道は。
それは広大無辺にして、万物を生み育て、天にまで極まるほど高く、豊かに満ちあふれている。 - 礼の大綱は三百、作法の細目は三千にものぼるが、
それはしかるべき人物がいて、はじめて実行される。 - だから「もし至徳の人がいなければ、至道は実現されない」と言われる。
- よって君子は、
- 生まれつきの徳性を尊重するとともに、後天的な学問にも励み、
- 広く大きな視野を追求しつつも、微細で繊細なところまできちんと明らかにし、
- 高遠な明徳をきわめながら、日常に即した中庸の道を守り、
- 過去の学びを温めて新たな知見を得、
- 重厚誠実であって、礼儀を重んじる。
- そのため、君子は
- 高位にあっても驕らず、
- 下位にあっても上に背かない。
- 国に道があれば、その言葉は人を動かすに足り、
国に道がなければ、その沈黙すら受け容れられるに足る。 - 『詩経』にはこうある:
「道に明るく、思慮深く、それによってわが身を保つ」
これはまさにこのような人物を指すものであろう。
■用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
洋洋乎 | 水が満ちあふれるように、広大で豊かにして勢いあるさま。 |
礼儀三百・威儀三千 | 『礼記』に記される規範数。三百は礼の原則、三千は実践動作。人倫秩序の細密さを表す。 |
至徳・至道 | 「至徳」は最高の道徳的完成、「至道」は最高の道理・規範。 |
尊徳性而道問学 | 生得的な性(道徳)を尊重しつつも、学問(知識・修養)を求めるという儒家の基本姿勢。 |
致広大而尽精微 | マクロとミクロ、全体と部分の両立を意味する修養法。 |
極高明而道中庸 | 高い理念を目指しながらも、常に中庸(過不及の回避)を保つ。 |
敦厚以崇礼 | 真心と厚みある人間性をもって、形式を尊重する。 |
其言足以興・其黙足以容 | 「言」=政が正しいときの積極的発言、「黙」=政が乱れたときの沈黙による自己保存。 |
■全体の現代語訳(まとめ)
聖人の歩む道とは、限りなく広がり、生命の源となり、天にも至るような高みをもつ。その徳は満ち満ちており、制度や礼法が整っていても、それを実行するに足る人がいてこそ意味をなす。
だからこそ、君子たる者は、生まれながらの徳性を守ると同時に学びにも励み、物事を大きく見渡しつつも、精緻に探究する。高遠な理念を掲げながら、現実に即して中庸を実践し、過去を振り返りつつ新しい知見を得る。そして、厚みと誠実さをもって礼儀を重んじる。
そうした人は、地位が高くても傲慢にならず、地位が低くても節義を曲げない。国が道を持つときはその発言が人を動かし、国が乱れるときでもその沈黙が尊ばれる。
これはまさに、『詩経』が詠んだ「明哲保身」の人物像に他ならない。
■解釈と現代的意義
この章は「理想的なリーダー像(=聖人・君子)」を描きつつ、徳・知・礼のバランスが取れた人格がいかに重要かを説いています。現代社会への応用として:
項目 | 現代への意義 |
---|---|
リーダーシップ | 規範や制度を整えるだけでなく、実行できる人間的資質が必要。 |
企業経営 | 理念(徳性)とデータ・ノウハウ(問学)の両立、ビジョン(高明)と実務(中庸)のバランスが重要。 |
人材育成 | 温故知新・敦厚崇礼の精神が、長期的に信頼される人物を育てる。 |
社会での立ち居振る舞い | 時に発言すべきときは語り、混乱のときは静かに支える沈黙の力もまた徳である。 |
■ビジネス応用の個別解説付き心得
- 理念経営の要諦:どれほど社内制度が整っていても、それを本当に動かせる「その人」がいなければ意味がない。トップの徳性がすべての礎となる。
- 戦略と実務の両立:「広大」と「精微」、「高明」と「中庸」の両方を実現するリーダーシップ。ビジョンと現場感覚の統合が必要。
- サステナブルな信頼形成:温故知新によりブレない信念を持ちつつ、厚徳礼節をもって取引先や顧客と関係性を築く。
- 社会不安定時の処し方:混乱の時代には「語るに足る者」として期待されると同時に、「黙して容れられる者」としての深さが求められる。
■まとめ心得一句
「高きに在って驕らず、下に在って節を曲げず、語るも黙すも、すべてが徳の顕れ」
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