目次
📖 引用原文
どの方向に心でさがし求めてみても、自分よりもさらに愛しいものをどこにも見出さなかった。
そのように、他人にとってもそれぞれの自己がいとしいのである。
それ故に、自分のために他人を害してはならない。
——『ダンマパダ(法句経)』第5章 第十八句
🧩 逐語訳
- どの方向に心でさがし求めてみても、
あらゆる手段で考え、感じ、探してみても、 - 自分よりもさらに愛しいものをどこにも見出さなかった。
自分自身ほど、自分にとって大切でかけがえのない存在はなかった。 - そのように、他人にとってもそれぞれの自己がいとしいのである。
他人もまた、同じように「自分の存在」を最も大切に思っている。 - それ故に、自分のために他人を害してはならない。
自己利益のために他者を傷つけてはならない。なぜなら、相手にとってその人生は、自分の人生と同じくらい貴重だからである。
🔍 用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
愛しいもの | 自分が最も守りたい・大切にしたいと感じる対象。ここでは「自己存在」そのもの。 |
害する | 身体的暴力に限らず、言葉・態度・搾取・無視・差別・裏切りなど、他人を傷つけるすべての行為。 |
自分のために | 利益・快楽・安心・勝利・優越感など、自分本位の動機に基づく行動全般。 |
🗣 全体の現代語訳(まとめ)
人は誰しも、他の誰よりも「自分」を大切に思って生きている。
そして、それは他人にとっても同じことである。
だからこそ、自分の満足や都合のために、
他人の「いとしい自己」を踏みにじってはならない。
自他の尊厳は、本質的に等価であるという深い倫理が語られている。
🧠 解釈と現代的意義
この句は、「自他一如(じたいちにょ)」の倫理――
すなわち「他人もまた、自分と同じように自分を大切にしている」という、
仏教の根幹的な共感と慈しみの精神を表現しています。
自己中心的な行動、他人を傷つけて得た成功、
誰かを犠牲にして得た満足――それらは決して真の幸福にはつながらない。
なぜなら、他人にとっての“自分”も、あなたにとっての“自分”とまったく同じ重さを持っているからです。
これは「利他」や「共感」だけでなく、
自制・抑制・謙虚さの根拠としても現代に強く響く教えです。
💼 ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
顧客との関係 | 自社の都合だけで顧客を利用するような発想は、長期的な信頼を損なう。顧客にも「大切な自己」がある。 |
マネジメント | 部下の人生や尊厳を、単なる成果の道具とせず、敬意をもって接する姿勢が人を動かす。 |
利益と倫理のバランス | 数字のために無理な押しつけや不公平を行うと、組織の倫理性が崩れる。 |
競争意識 | ライバルを蹴落としてでも…という考えは、「自分のいとしさ」のために「他人のいとしさ」を否定する行為。 |
🧭 心得まとめ
「あなたが自分を愛するように、他人もまた自分を愛している」
——その気づきが、思いやりと慎みを生む。
人間は、自分の人生が唯一無二であることを知っています。
それは他人にとっても同じです。
だからこそ、「自分のために他人を傷つけない」という抑制が、
人間関係にも、社会にも、そして自分自身の平和にもつながっていくのです。
自分の喜びのために、誰かを悲しませてはならない。
自分を愛するなら、他人もまた愛することができるようになる。
それが真の成熟と、慈悲の第一歩です。
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