目次
■引用原文(日本語訳)
強くあるいは弱い生きものに対して、暴力を加えることなく、
自らも殺さず、他人にも殺させない者――
その人を、私は〈バラモン〉と呼ぶ。
(『ダンマパダ』第405偈|第二六章「バラモン」)
■逐語訳
- Yassa jīvaṃ na hiṃsanti:その人は、いかなる生き物をも害さない
- Sabbe sattā bhayadditā:すべての生き物が、彼に出会っても恐れず、安らかである
- Na ghāteti na ghañceti:彼は自ら殺さず、他人にも殺させない
- Tam ahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ:そのような人を、私は〈バラモン〉と呼ぶ
■用語解説
- 暴力を加えない(na hiṃsanti):身体的・言語的・精神的なあらゆる害を与えないこと。
- 強きもの・弱きもの(jīvaṃ… bhayadditā):どのような立場の生命にも等しく慈悲を向けること。
- 殺さず・殺させず(na ghāteti, na ghañceti):直接的にも間接的にも暴力に関与しない、完全な非暴力の実践。
- 生き物への恐怖のない存在:慈しみの波動を放ち、動物ですらその人を前にして安らぐ存在。
■全体の現代語訳(まとめ)
彼は、どんなに小さな命にも暴力を振るわず、
自らも殺さず、誰にも殺させない。
強い者にも、弱い者にも等しく害を与えず、
すべての命にとって安全で安らげる存在――
そのような人こそ、仏陀は〈バラモン〉と呼ぶ。
■解釈と現代的意義
この偈は、仏教の根本徳目である**「アヒンサー(非暴力)」**を徹底して体現する人物像を描いています。
非暴力は単なる「手を出さないこと」ではなく、存在そのものが「他者にとって安らぎの源」であることを意味します。
暴力とは、物理的なものだけでなく、言葉、態度、無関心、差別など、多様なかたちで他者に苦しみを与えうるものです。
そのすべてにおいて無縁であろうとする姿勢は、究極のやさしさ・成熟・強さの証です。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
心理的安全性の提供者 | 部下や同僚が「この人の前では安心して話せる」と感じられる上司・リーダーは、真に信頼される。 |
非攻撃的コミュニケーション | 批判ではなく共感を通じて問題提起する人は、チームを分断せずに進化させられる。 |
持続可能なリーダーシップ | 指導力とは、威圧ではなく、思いやりによる導きであり、それが長期的な影響力につながる。 |
倫理的ビジネスの実践 | 利益のために他者を犠牲にしない。環境・人権・公正性に配慮した判断が、組織の信用を守る。 |
■心得まとめ
「すべての命が安らげる存在であれ」
力ある者も、弱き者も、
人も動物も、心も体も――
誰一人として、その人のそばでは苦しみを感じない。
そんな「安全そのものの存在」になれることが、
真の強さであり、成熟であり、悟りなのです。
ビジネスの世界でも、
恐れや競争ではなく、安心と尊敬を生み出せる人こそが、
次世代を導く〈バラモン〉なのです。
コメント