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■引用原文(日本語訳)
怒ることなく、つつしみ深く、戒律を守り、欲を増さず、
身をととのえて、最後の身体(=輪廻の最終段階)に達した人――
その人を、私は〈バラモン〉と呼ぶ。
(『ダンマパダ』第400偈|第二六章「バラモン」)
■逐語訳
- Akkodhano:怒らず
- Saṃvutavāk:言葉を慎み(沈黙を守り)
- Sīlavā:戒律を守る人
- Bhāvanāya niccappayutto:常に修養と心の訓練に励み
- Akiñcano:無一物で(欲にとらわれず)
- Asaṃhīro:心が乱れず安定しており
- Tam ahaṃ brūmi brāhmaṇaṃ:そのような者を、私は〈バラモン〉と呼ぶ
■用語解説
- 怒らぬこと(akkodhano):怒りを抱かず、穏やかな精神を保つこと。仏教では怒りは「三毒」の一つ。
- つつしみ(saṃvutavāk):言葉や行動に節度を持ち、軽はずみな言動を避けること。
- 戒律を奉じる(sīlavā):倫理と自制の基本である「五戒」や修行者の「律」を守ること。
- 欲を増さない(akiñcano):欲望によって所有を求めない、無執着の姿勢。
- 身をととのえる(asaṃhīro):心と体が調和し、騒がず、ぶれない安定した生き方。
- 最後の身体に達した人(pacchimakāya):輪廻の終点、解脱を果たし再び生まれることのない悟りの境地。
■全体の現代語訳(まとめ)
怒りを抱かず、言葉を慎み、戒を守り、欲に流されず、
心と身体を整え、騒がず、静かに、完全な修行を成し遂げた者。
そのようにして輪廻の終わり(=最後の身体)に至り、
完全なる解脱を得た人――
それが、仏陀の語る〈バラモン〉である。
■解釈と現代的意義
この偈は、「精神的な成熟とは何か」を具体的に示しています。
怒りを手放し、言葉を慎み、欲望を抑え、自分を律し、そして心身を整える――
それが解脱=真の自由に通じる道であるという教えです。
現代においても、感情のコントロール・自己管理・欲望の節制・言動の慎みは、人格の成熟と信頼形成に不可欠な要素であり、仏教的完成者の姿と完全に一致します。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
感情マネジメント | 怒りや苛立ちに支配されず、冷静に対処することで、リーダーとしての安定感を示す。 |
言葉と行動の慎み | 言い過ぎず、誤解を招かない誠実なコミュニケーションが、長期的信頼を築く。 |
倫理観の保持 | 短期的利益よりも、誠実な行動とルール遵守を重視する姿勢が、組織文化を安定させる。 |
欲への節度 | 昇進・報酬・称賛に過度にとらわれず、内発的動機で動く人材は、自律性と持続力を持つ。 |
バランスのとれた生き方 | 身体(健康)と心(メンタル)の整えを重視することで、継続的なパフォーマンスが可能になる。 |
■心得まとめ
「怒らず、欲せず、戒を守り、ただ静かに完成へ向かえ」
怒りのない心、静かな言葉、貪らぬ姿勢――
それが、外に誇ることなく、内に光を蓄えた生き方である。
バラモンとは、名声や地位ではなく、
内面を整え、静かに生きることの中に完成を見出した人。
現代のビジネスにおいても、こうした「静かなる強さ」が、
組織を支える中核の人格となるのです。
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