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■引用原文(『ダンマパダ』第十三章 第177偈)
物惜しみする人々は天の神々の世界におもむかない。愚かな人々は分ちあうことをたたえない。しかし心ある人は分ちあうことを喜んで、そのゆえに来世には幸せとなる。
― 『ダンマパダ』第177偈(中村元訳)
■逐語訳(逐文的な意味の解釈)
- 物惜しみする人々は天の神々の世界におもむかない:財や労を惜しむ者は、善行による果報を得ることがなく、天界(善き再生先)には至らない。
- 愚かな人々は分ちあうことをたたえない:無知な者は「分け与えること」の価値を理解せず、賞賛もしない。
- 心ある人は分ちあうことを喜んで:智慧ある人は、他者と分かち合うことに喜びを感じる。
- そのゆえに来世には幸せとなる:その功徳によって、死後も善き世界に生まれ、幸福な状態に至る。
■用語解説
- 物惜しみ(マッツァリヤ):仏教五蓋・煩悩の一種。他者と分け合うことを嫌い、独占する心。
- 天の神々の世界(デーヴァ・ローカ):徳と功徳によって生まれるとされる、苦の少ない善趣の世界。
- 分かち合い(ダーナ):施し・布施・与えること。仏教における最も基本的な徳行のひとつ。
- 心ある人(パンディタ):智慧と慈悲を備えた実践者。善行を喜びとして行う者。
■全体の現代語訳(まとめ)
「物惜しみをする者は、死後に天界に生まれることはない。愚かな者は分かち合うことの尊さを理解しない。
しかし、智慧ある者は分け与えることに喜びを見出し、その行為によって、来世において幸福となる。」
――これは、施しの徳を重視し、「惜しまず与えることが自他を救う」という仏教の根本精神を説いています。
■解釈と現代的意義
この偈は、仏教における「ダーナ(布施)」の徳を端的に示しています。
富や知識、労力、時間など、どんな形であっても「分かち合うこと」は、自他を幸福に導く根源的な善行です。
現代社会でも、「与える者は豊かになり、奪う者は孤立する」という原則は多くの場面で成立します。
特に競争や成果主義が強い環境にあっても、「惜しまず与える心」が長期的には人間関係、信用、そして精神の豊かさを築いてくれるのです。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
ナレッジ共有の重要性 | 自分の知識やノウハウを独占するのではなく、チームで共有する人が組織全体の信頼と成長を引き出す。 |
利他的精神のリーダーシップ | 部下や同僚のために惜しまずサポートするリーダーは、厚い信頼を集め、結果的に組織全体の幸福度も上がる。 |
寄付・社会貢献 | 利益の一部を社会に還元する企業は、顧客や社会からの評価も高く、ブランド力やリクルートにも好影響を与える。 |
人間関係の信頼構築 | 自分の利益だけでなく、相手の幸せを願って行動する姿勢が、人間関係の根幹となる。 |
■心得まとめ
「惜しむ心は貧しさを生み、分かつ心は幸福を育む」
この偈は、分かち合いが単なる施しではなく、自らの人生をも照らす道であることを教えています。
与えることで失うのではない。与えることでこそ、心も社会も豊かになるのです。
あなたの手にあるもの――財・時間・知恵・労力――それを惜しまず分かち合うことが、今生でも来世でも、真の幸福を招くのです。
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