一、章句(原文)
お側長崎お仕組に、一とせ二番立に割付け、御帳出来候を見候に付て、役人へ申し候は、「陣立の時分、殿の御供仕らざる儀、拙者は罷成らず候。弓矢八幡、触状帳面に判仕らず候間、左様に心得申さるべく候。これは書物役仕る故にて候はんと存じ侯。斯様に申す儀不届と候て、役を差はがるるは本望、切腹幸にて候」と申捨て罷立ち候。その後詮議にて仕直し申され候。若き内、力みこれなく候ては罷成らず候。心得有る事の由。
二、現代語訳(逐語)
ある年、長崎防備のための藩士編成が行われ、自分は第二陣(本隊外)に割り当てられた。
名簿を見てそれを知り、担当役人のもとに出向いてこう言った。
「今回の編成で、私は殿のお供に加えられておりませんが、これは承服できません。
私は帳簿係を務めているせいで本隊から外されたのだと思いますが、それでも納得できません。
この件について、帳簿に判を押すことはいたしません。
このような発言が不届きで役を外されるのであれば、それは本望。切腹させていただきます。」
そう言い捨ててその場を立ち去った。
その後、取り計らいによって自分は本隊に編成し直された。
若いうちは、力み(意気込み)がなくてはならぬ。心得ておくべきことだ。
三、用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
お側長崎お仕組 | 長崎防備のための藩士編成。幕府の命により佐賀藩が担っていた重要任務。 |
弓矢八幡 | 軍務のこと。武士の本分である戦い・護衛などの意味。 |
触状帳面 | 配置記録。名簿・公式な配置表。 |
力み(りきみ) | 気概、意志、強い主張。若者らしい主張の意味合いを含む。 |
四、全体の現代語訳(まとめ)
常朝は若き日に、重要な任務に対して自らが本隊に含まれていないことを不服として、命をかけて抗議をした。「帳簿係だから外された」と理解しても、納得はせず、自らの忠義と意志を行動で示した。
結果的にその姿勢が認められ、本隊に加えられることとなった。
この経験を通して、常朝は「若者には主張する気概が必要である」と語っている。
五、解釈と現代的意義
この章句が伝えるのは、単なる“反抗”ではなく、**自己の信念を貫く「若さの価値」**であり、「志ある者は黙して従うな」というメッセージです。
特に注目すべきは:
- 配置に不満を言うのは不忠ではなく、「真に役に立ちたい」という想いの表明。
- 若者が命をかけてまで抗議するという極端な言動こそが、逆に「真の忠義」であるという武士的価値観。
- 意気込みは、時に配置や評価をも動かす力を持つ。
これは現代でも、「若者の進言や反論は組織を活性化する源である」という視点につながります。
六、ビジネスにおける解釈と適用(個別解説)
項目 | 解釈・適用例 |
---|---|
若手社員の声 | 若い人材が理不尽な判断に対して異を唱えることは、むしろ組織の健全性を示す。 |
配置・異動への納得感 | 単なる配置命令ではなく、「意志ある希望」が存在する場合、それを聞く器も上司には求められる。 |
主張と忠誠 | 上に逆らうこと=不忠 ではない。「貢献したい」という熱意を読み取ることが重要。 |
若者の育成 | 抑え込むよりも、主張の筋を正しつつ伸ばすことで、将来の中核人材となる。 |
七、心得まとめ
- 若さとは、声を上げることに意味がある。意見を言わない忠義に、成長はない。
- 忠義とは、配置や命令に盲従することではなく、「自分をどう活かすか」を考えて行動すること。
- 上位者は、若者の「過剰なように見える主張」も受けとめ、それが組織の未来になると理解すべき。
- 若いうちに、「本望」「切腹覚悟」など、極端であっても腹の底から言える覚悟を持って挑め。
- 意志ある反抗こそ、後に認められる実力となる。
コメント