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義の契りは、命をもって守る


一、原文引用(抄)

中野杢之助(年寄役)去年御参観の御道中にて、ある者説言致し、首尾悪しく、お目通リヘ召出されず候。
御機嫌御勝れなされざるに付て、鍋島来女申上げ候は、
「自然御本復遊ばされざる節は、杢之助・志波喜左衛門・某三人はお供仕るはずに、かねがね申合はせ置き候。
外にも数人御座あるべく候へども、申合はせざる人は分明心得申さず候。
されば杢之助儀御存生内に召直され候様に」と申上げ候に付、即ち御前へ召出され候。


二、現代語訳(まとめ)

年寄役(重役)の中野杢之助は、勝茂公の参勤交代で江戸に上った際、ある者の「讒言(ざんげん=中傷)」によって、主君・勝茂の信を失ってしまった。
その結果、御前への召し出しも止まり、政治の場から遠ざけられていた。

しかし、勝茂公が重病に倒れた際、**鍋島采女(うねめ)**が進言した。
「私と志波喜左衛門、そして杢之助の三人は、殿に万一のことがあれば、ともに殉死することを申し合わせております。他にも殉死する者はあるかもしれませんが、それは本人たちの意志が定かではありません。
どうか、今のうちに杢之助を再び御前にお召しください

この誠意ある申出により、杢之助は再び召し出されることとなり、面目を一新した。


三、用語解説

用語解説
説言(せつげん)他人を中傷・告げ口すること。
御参観の御道中主君の参勤交代の旅。
鍋島采女鍋島家の家臣の一人。忠義に厚く、この件では調停役を果たした。
御前へ召し出される直接主君の前に出仕すること。信任の証でもある。
申合せ(もうしあわせ)あらかじめ互いに相談し、意志や行動を合わせておくこと。

四、解釈と現代的意義

■ 忠義を守るための「助け舟」

鍋島采女の行動は、仲間を見捨てない誠意と機転の極致である。
一度信を失った者でも、その忠義が本物であれば取り戻す道があるという、救いの物語でもある。

■ 「申合せ」は単なる言葉ではない

三人が「一緒に殉死する」と誓い合っていたことは、現代で言えば、**覚悟を伴う“志の契約”**だった。
それを忠実に守ろうとした采女の行動が、結果として主君の信を取り戻させた。

■ 忠誠には、説明責任と代弁者が必要

誤解によって評価が下がった杢之助を、代弁し、主君に真意を伝える者の存在がいかに重要かを物語っている。
現代でも、組織内で誤解された者や過去の失敗で評価が下がった人材の再評価を促す「声」が必要である。


五、ビジネスにおける応用・示唆

教訓現代ビジネスへの応用
仲間の名誉を守る姿勢チームメンバーの失地回復に力を貸すことは、組織の絆を強める
申合せは信頼の証共通の目標を共有した「意思統一」は、不測の事態においても団結力を発揮する
上申・進言の重要性上司や経営陣に対し、正しく仲間の意志を伝える「進言力」は、組織を公平に保つ鍵となる。

六、心得の結び:「義とは、友を見捨てぬことなり」

この逸話は、忠義とは孤立した行為ではなく、絆と信頼の連携によって真価を発揮するということを教えてくれる。

志をともにした者が倒れたとき、手を差し伸べてこそ真の仲間。
誓いを貫くとは、自らだけでなく、仲間をも信じ抜くことなり。

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