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人生は夢の間 ― 好きを極めて生きよ


一、原文の引用

人間一生は、誠に編(あや)しき事なり。好いた事をして暮すべきなり。夢の間の世の中に、好かぬ事ばかりして、苦を見て暮すは愚かなることなり。
この事は、わろく聞いては害になる事ゆゑ、若き衆などにつひに語らぬ奥の手なり。
我は寝る事が好きなり。今の境界相応に、いよいよ禁足して、寝て暮すべしと思ふとなり。


二、現代語訳(逐語)

人間の一生というものは、まったくもって不思議で短いものだ。
だからこそ、自分の好きなことをして暮らすべきだ。
この世の中は一瞬の夢のようなものであり、そのなかで嫌なことばかりして苦しんで生きるのは、なんとも愚かなことだ。

ただし、この考えは間違って受け取ると害をなす恐れがあるため、若い者たちにはこれまで決して語らなかった“奥の極意”である。
私は寝ることが好きで、今の境遇に見合うように、ますます外出を控え、寝て暮らそうと思っている。


三、用語・語句の解説

用語解説
編の事(あやしきこと)不思議なこと、はかないこと。人生のはかなさを指す。
夢の間「夢のような一瞬」の意。浮世・現世の儚さを象徴する表現。
奥の手最も大切な極意、表に出さない秘法。
禁足外出を控えること。隠棲・引退の表現とも読める。

四、全体の現代語訳(まとめ)

人間の人生は、本当に不思議で、短い。
だからこそ、自分の「好きなこと」をして生きるべきなのだ。
この世は夢のように儚いもので、嫌いなことばかりして苦しむような人生は愚かである。

ただし、この極意は軽く受け取られると誤解を招く。怠けの口実になってしまうから、若い人には話さないできた。
私自身は、寝ることが好きだ。年齢や境遇にふさわしく、外出を控えて、これからは静かに寝て暮らしたいと思っている。


五、解釈と現代的意義

1. 「好き」を人生の核に据える覚悟

この章は、人間の幸福とは“好きを貫くこと”にあるという根本的な人生観を示しています。
ただし、単なる欲望の放縦ではなく、「人生の有限性」に立脚した選択の美学です。

2. 自己実現と“覚悟ある自由”

この章は、無責任な放蕩ではなく、覚悟をもって「何をしないか」を選ぶ自由を肯定しています。
例えば、隠遁する常朝自身も、かつては武士として必死に生きてきた背景がある。そのうえで選ぶ“寝て暮らす”という生き方には、積み重ねの先にある「境地」があるのです。

3. 若者には語らぬ“奥義”の意味

この思想が「奥の手」とされているのは、若者がこれを単なる怠惰の口実に使うことを恐れたからです。
「苦労の果てに得た自由」でなければ、価値がない。
これは、現代の自由・幸福論にもつながる視点です。


六、ビジネス応用(個別解説)

項目解釈・応用
キャリア形成好きなことを仕事にすることは理想だが、軽く選んではならない。積み重ねの果てに見える“好き”こそ、本質的な幸福。
働き方改革仕事に対する価値観は多様でよい。だが、単なる効率主義ではなく、“心からの納得感”がなければ意味はない。
リーダーシップ他人の生き方を軽く裁かず、「好きなことをする覚悟」を尊重できるリーダーこそ、成熟した人物である。
組織の人事制度画一的な評価軸で人を縛るのではなく、多様な“生き方”や“働き方”を受け入れる器を持つべき。

七、まとめ:この章が語る人生の真髄

  • 人生は夢の間、ならば「好きをして生きよ」。
  • ただしその極意は、軽々しく口にすべきではない。
  • “自由に生きる覚悟”を持てる者だけが、真に幸福を得る。

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