一、原文(抄出)
写し紅粉を懐中したるがよし。自然の時に、酔覚か寝起などは顔の色悪しき事あり。斯様の時、紅粉を引きたるがよきなりと。
二、書き下し文(現代仮名)
写し紅粉(うつしべに・おしろい)を懐中しておくのがよい。
不意のときに、たとえば酔いから覚めたときや、寝起きのときは顔色が悪いことがある。
そうしたときに、紅粉をさっと使うとよいのである。
三、用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
写し紅粉(うつしべに・こうふん) | 口紅やおしろいの類。ここでは顔色を整えるための化粧道具を指す。 |
懐中 | 懐(ふところ)、ポケットに入れておくこと。常に持ち歩く習慣のこと。 |
自然の時 | 不意の場面・突発的な事態。準備していない場面。 |
酔覚(すいざま) | 酒が醒めた直後。体調や表情が整っていない時間帯。 |
紅粉を引く | 化粧を施して顔色を整えること。 |
四、全体現代語訳(まとめ)
身だしなみとして、常に化粧道具(紅やおしろい)を持ち歩くとよい。
というのも、酔いがさめた直後や、寝起きなどで顔色が悪く見えることがあるためだ。
そういう時に、さっと紅粉を使って顔色を整えるとよいのである。
五、解釈と現代的意義
この短い章句は、「外見(身だしなみ)もまた礼儀の一部である」 という武士の心得を示しています。武士といえども、顔色や身支度を整えるという「美意識」が求められていたのです。
特に、「不意の時に備える」という点が重要です。
これは現代にも通じる「緊急対応・想定外の場面での印象管理」に他なりません。
六、ビジネス応用(実践的視点)
シーン | 現代的応用法 |
---|---|
✅ 会議前 | 鏡で顔色チェック、目元の疲れケア、清潔な服装の最終確認 |
✅ 出張時 | 歯ブラシセット、制汗剤、予備シャツなど、即対応できる準備 |
✅ 朝の始業時 | 睡眠不足でも“整っている”と見える姿勢・顔つき・言葉遣い |
✅ オンライン会議 | 表情、照明、背景などを整え、画面越しの印象も意識する |
七、心得まとめ
「外見は口ほどに物を言う。意識の低さは顔色に出る」
・身だしなみは相手への敬意
・不意の瞬間にこそ“準備している人”と見抜かれる
・身を整えることは、心を整えることの第一歩
この章句は、単なる美容や見た目の問題にとどまらず、日常的な心構えと信頼構築のための準備力を説いています。「身だしなみを怠る者は、心も整っていない」という言葉もあります。現代においては、ビジネスパーソンの必須マナーともいえる教えです。
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