一、原文(抄出)
寄合日の書付を御覧なされ候て、仰出され候は、
「詮議の書付、雑務方計りにて候。国家の事一事も相見えず。沙汰の限り不届千万」
と殊の外のお叱り、遊出を以て仰出され候由。
二、書き下し文(要所)
勝茂公が定例会議の議題をご覧になった際、
「この寄合(重臣会議)の議題は雑務、つまり事務的な細かい処理ばかりで、国家を動かすべき政(まつりごと)=戦略的議題が一つもない。これは許しがたい怠慢である」と、激しく叱責された。
そのうえで、自ら筆をとって**あるべき会議の主題(政務)**を示されたという。
三、逐語現代語訳
- 「寄合日」:定例の重臣会議・政務会議。
- 「詮議の書付」:協議すべき事項・議題。
- 「雑務方計り」:事務的・日常的な運営の細部に終始していること。
- 「国家の事一事も相見えず」:政策・統治・方向性に関することがまったく扱われていない。
- 「沙汰の限り不届千万」:あきれるほどの怠慢である。許しがたい。
四、背景・補足(現代語訳まとめ)
勝茂公は、藩政を預かる会議において扱われていたのが、すべて「事務的・実務的な処理」に限られていたことに強い怒りを示しました。
つまり、「戦略的判断」「政策的構想」が欠如していたことが問題だったのです。
現代で言えば「経営会議がメール対応・報告書の誤字修正・備品管理のような雑務ばかり」という状態に近く、
リーダー自らが「戦略目線を忘れるな」と示したという、非常に重要な教訓です。
五、解釈と現代的意義
この章句は、「マネジメント=タスク処理」ではなく、「政(まつりごと)=方向性の指示・意思決定」があってこそ意味があるという、リーダーシップの本質を教えています。
現代の組織でも同様に、「会議で本質的議論がされていない」「日々の事務に埋もれてビジョンが語られない」という問題は多発しています。
勝茂公の叱責は、「小さな仕事に忙殺され、大きな判断がなされない組織」への強烈な反省を促してくれます。
六、ビジネスにおける応用(実践項目)
項目 | 解釈・応用 |
---|---|
経営会議・取締役会の質 | タスク報告に終始せず、戦略・ビジョン・未来に関わる議題を必ず含める。 |
リーダーの責任 | 実務への介入よりも、「方向を示すこと」にこそ本分がある。 |
議題設計の見直し | 議題が“報告事項”ばかりになっていないか常に精査する。戦略的論点を意識的に設定。 |
経営視座の教育 | ミドルマネジメントにも、日常業務から政策思考・構想思考への橋渡しを促す。 |
「緊急」より「重要」を | 火消しのような雑務に忙殺されず、今は見えにくいが長期的に重要な“政”を扱う勇気を持つ。 |
七、心得まとめ
「事務に忙殺されるな。政なき会議は、ただの連絡会だ」
勝茂公が叱責したのは、「動いてはいるが、考えていない会議体」。
組織を動かすのは、誰かの“政策思考”であり、目先の処理ではなく未来の選択である。
リーダーは、事務を見通して政を語る者であれ。戦術が優れていても、戦略なき組織は必ず迷う。
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