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恐れられてこそ、信は宿る ― 真の奉公は迎合を超えて


一、原文(抄出)

主にも、家老。年寄にも、ちと隔心に思はれねば大業はならず。
何事もなく腰に付けられては働かれぬものなり。この心持これある事の由。


二、書き下し文

主君にも、家老や年寄といった重臣たちにも、多少は疎まれたり、距離を置かれたりするくらいでなければ、大きな仕事(大業)は成し遂げられない。
ただの腰巾着のように、何事もなくくっついているだけの者では、思い切った働きはできない。
この心構えを持ってこそ、本当の仕事人と言えるのだ。


三、逐語現代語訳

  • 「ちと隔心に思はれねば」:多少は疎まれたり、異物感を抱かれたりするくらいがよい。
  • 「大業はならず」:大きな仕事、成果ある働きはなし得ない。
  • 「腰に付けられては」:ただ従順に付き従っているような存在では。
  • 「この心持これある事」:このような心構えを持っておくことが大切だ。

四、用語解説

用語解説
隔心(かくしん)心の隔たり、違和感、遠慮。ここでは「煙たがられる」「扱いにくい存在」といった意味合い。
腰に付けられて腰巾着のように、ただ付き従っているだけの存在を指す比喩。
大業国家・藩・組織・事業などにおける大きな成果、改革、抜擢。

五、全体現代語訳(まとめ)

本当に大きな仕事を成し遂げようとする者は、主君や上司、年長者からも時に疎まれたり、扱いにくく感じられたりする存在であるべきだ。
ただ従順で無害な腰巾着のような存在では、大胆な意見も進言もできず、大事は成し得ない。
むしろ「少し煙たがられることを恐れない」心構えが、本気で組織を動かそうとする者には必要なのだ。


六、解釈と現代的意義

この章句は、「忠誠=従順」と勘違いする現代の組織人に対する鋭い警鐘です。
本当に組織を思い、上を支えるために尽くす者は、ときに意見し、ときに反発し、迎合しない孤独な姿勢をとらねばならない。

組織にとって本当にありがたい人材とは、「耳の痛いことを言うが、信じられる者」。
だからこそ、「上に気に入られるだけの存在」ではなく、疎まれても信を貫く存在であることが、真の奉公の形なのです。


七、ビジネスにおける応用(実践項目)

項目解釈・応用
提言の勇気上司や経営陣に対して、耳障りでも本質を突いた意見をぶつけること。
空気を壊す覚悟全会一致を求める空気の中で、「それは違う」と言える姿勢が改革を生む。
忠誠と追従の違い本当に組織を思うなら、言いにくいことを言うことが忠義である。
煙たがられることへの耐性自分が少し浮いたとしても、志を貫くことで信頼を勝ち取る。
上司との距離感適度な距離が、かえって信を生む。ベッタリでは「異議」も「信用」も持てない。

八、心得まとめ

「信は煙の中にこそ宿る」

好かれることを恐れるな。嫌われることも恐れるな。
本当に上のためを思えば、煙たがられることもある。
だがその“距離”にこそ、真の信と忠が宿る。
迎合を捨てて志を立てよ。大業はそこから始まる。


この章句は、リーダーにも部下にも通じる鋭いメッセージを秘めています。

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