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忠義は、誇るものにあらず ― 忠節に名乗り出るなかれ


一、原文(抄出)

拙者は常々は何の御用にも立ち申さず候へども、一命を捨て候節は拙者一人にて候。
盛徳院殿もつての外立腹、「家中の者一人も命を惜しむ者あるべきや、高慢の儀を申す」と候て、手打あるべき様子に候故…


二、書き下し文(要所)

盛徳院殿(鍋島勝茂の四男・白石藩主)の家臣が、ある日、主君に向かってこう語った。
「殿には真に頼りになる家臣はおられません。私は普段はお役に立ちませんが、いざという時には命を捨てる覚悟がございます」と。

それを聞いた盛徳院殿は烈火のごとく怒り、
「我が家中に命を惜しむ者など一人もいるはずがない。己ひとりが忠義者のつもりか!」
と、手討ちにしかけた。周囲がとりなしてその場は収まった。


三、逐語現代語訳

  • 「頼み切りの人をお持ちなされず候」:殿には、心から頼れる家臣がいないと思います。
  • 「一命を捨て候節は拙者一人」:命を投げ出せるのは、自分一人だけでありましょう。
  • 「高慢の儀を申す」:傲慢で思い上がった発言である。
  • 「手打あるべき様子」:その場で斬り捨てられてもおかしくない状況。

四、用語解説

用語解説
盛徳院殿鍋島直弘(勝茂公の四男)。白石領主。山城殿とも。
家中家臣団、組織全体。
忠義主君に対する誠心・献身。奉公の基本。
手打主君の裁量で家臣を処刑すること。

五、全体現代語訳(まとめ)

ある家臣が「私は普段は役に立っていませんが、いざというときには命をかけて忠義を尽くします。そんな家臣は私ひとりでしょう」と語った。
それを聞いた主君・盛徳院殿は、「お前ひとりが忠義者などとふんぞり返るな。家臣全員が命を惜しまぬ覚悟で仕えているのだ」と激怒。
忠義を誇る言動は、かえって不忠であり、組織全体を貶めると受け取られかねないことを示す逸話である。


六、解釈と現代的意義

この章句は、「忠義」を語ること自体が不忠となる危険を説いています。
忠義とは表明するものではなく、行動として示されるものであり、他人を貶めるような形で語られては、たちまち自己満足や高慢として受け取られるのです。

現代でも、会社やチームにおいて「自分だけが本気」「自分だけが会社を支えている」といった態度は、仲間の志を踏みにじる行為となり、孤立や不信を招きます。

忠義や誠意は、語るのではなく、黙って備え、必要な時に自然と発揮されるべきものです。


七、ビジネスにおける応用(実践項目)

項目解釈・応用
自己評価の慎み自分の忠誠や努力を語ると、それは「誇り」ではなく「慢心」と受け取られる可能性がある。
チーム尊重自分だけが特別に貢献しているかのような発言は、仲間への侮辱になりかねない。
リーダーシップ他者の忠義や努力を信じ、称えることが、真のリーダーとしての器。
発言の責任正論であっても、言い方や場の空気を誤れば、結果として組織を壊す。
忠義の本質忠義・献身・志は「発揮されるもの」であって「語られるもの」ではない。

八、心得まとめ

「忠義は、黙して咲かす花のごとし」

忠義とは、語ることで薄れ、誇ることで穢れる。
組織の中で真に評価されるのは、「語らずとも信を集める人」なのである。
「ひとりで忠義づらをするな」――この言葉は、自分の志を絶やさぬために、そして仲間への敬意を忘れぬために、常に胸に置くべきである。


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