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忠義をもって縁を結べ ― 利己を捨てて道を拓く


一、原文(抄出)

御前近き出頭人には親しく仕るべき事なり。
我が為にすれば追従なり。何ぞ申上げたき事ある時の階なり。
もつともその人忠義の志なき人ならば無用なり。何事も皆主人の御為なり。


二、書き下し文

御前(主君のそば)近くに出仕する者には、親しく接するべきである。
これを自分のため(利得や出世)に行えば、それは追従(おべっか)となる。
何か主君に申し上げたいことがある時のために、その人を通じて道を作っておくのである。
ただし、その人物に忠義の心がないならば、近づく必要はない。
何事もすべて主君のためである。


三、逐語現代語訳

  • 「御前近き出頭人には親しく仕るべき事なり」
     主君の近くに仕える有力者とは、日頃から親しくしておくべきである。
  • 「我が為にすれば追従なり」
     しかし、それを自分の出世や利益のために行えば、ただのご機嫌取り(追従)である。
  • 「申上げたき事ある時の階なり」
     主君に何か意見を申し上げたい時のための「橋渡し」としての関係なのである。
  • 「その人忠義の志なき人ならば無用なり」
     だが、相手に忠誠心がなければ、そのような関係は無意味である。
  • 「何事も皆主人の御為なり」
     すべての行動は、主君のためであるべきだ。

四、用語解説

用語意味
御前近き出頭人主君の側近・取り次ぎ役を果たす重臣や幹部。
親しく仕る信頼関係を築くこと。単なる表面上の交際ではない。
追従(ついしょう)ご機嫌をとって取り入ろうとすること。おべっか。
階(きざはし)段階・階段。ここでは「取り次ぎの口」、「意見を通すための道」を意味する。
主人の御為主君のため、つまり公共心・忠誠心・義務感を指す。

五、全体現代語訳(まとめ)

主君の近くにいる人物とは日頃から関係を築いておくべきであるが、それは自分の利益のためではなく、主君にとって必要な意見や進言を届けるための道を作るという目的でなければならない。
忠義のない人物に近づいても意味はない。あくまで、すべては主君(組織・理念)のために行うという姿勢が肝要である。


六、解釈と現代的意義

この章句は、権力の周辺とどう向き合うか、その倫理を説いています。

常朝は、出世や保身のために権力者に媚びることを厳しく戒めています。
一方で、「志ある連携」や「忠義をもった協働」は必要だとし、「橋渡しとなる関係」を築くことは推奨しています。
これは現代で言えば、信頼できる上司や幹部と連携し、組織や顧客のために提案ルートを確保することにあたります。


七、ビジネスにおける応用(実践項目)

項目解釈・応用
社内政治上層部との関係は、利己的な昇進狙いではなく、「組織を良くする」ための経路として活用する。
ステークホルダー戦略意思決定に影響を持つ人物とは信頼関係を築いておくが、それは最終的に顧客・社会のためでなければならない。
意見具申提案や意見を通したいとき、信頼ある人間関係を築いておくことで、意見が届く構造を事前に作っておく。
人脈形成利得目的のネットワークではなく、理念・目的共有に基づく「価値のある縁」を育てるべし。
倫理判断忠義なき者(理念なき動機)との関係は、むしろリスクになる。誠実さが最優先。

八、心得まとめ

「縁を結ぶなら、志ある者と」

本当に主君(=顧客、組織、理念)のために動くならば、有力者との縁は必要である。
しかしそれが私利私欲に変わった瞬間、それは「追従」となり、自分を貶める。
「志のある者」との縁こそが、進言の道を開き、誠実な行動を支えてくれる。


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