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相手の上をゆくには、別次元からの理を探せ


目次

一、原文と逐語訳

原文:

詮議事または世間の話を聞く時も、その理もつともとばかり思ひて、そのあたりにぐどついては立越えたる理が見えず。人が黒きと云はば黒きはずではなし、白きはずなり、白き理があるべしと、その事の上に理を付けて、案じて見れば、一段立ち上りたる理が見ゆるものなり。斯様に眼を付けねば、上手取ることはならず。
さてその座にて云ふべき相手ならば、障らぬ様に云ふべし。云はれぬ相手ならば、障らぬ様に取合ひして心にはその理を見出して置きたがるがよし。人に越えたる理の見ゆる仕様は斯くの如きなり。
何某縁辺切の事、日達。わる推量・裏廻り、物疑ひなどとは違ひ候なり。
(聞書第二)


現代語訳(逐語):

詮議(議論)や世間話を聞くとき、ただ「なるほど、もっともだ」と思ってそのまわりで思案していては、それ以上の優れた理屈は見つからない。
たとえば人が「これは黒い」といえば、「いや、黒いはずがない。むしろ白い理屈があるはずだ」と、まったく異なる観点から考えてみると、一段高い理屈が見えてくるものである。
このような見方ができなければ、相手の上手をとることはできない。

もしその場で話せる相手なら、相手を傷つけないよう配慮してその理を述べればよい。話せない相手なら、穏やかに受け答えして、内心では理屈を見出しておけばよい。

こうして人の上をいく道理を見つけるのが正道であり、裏読みや邪推、疑念などとはまったく異なる。


二、用語解説

用語意味
詮議事(せんぎごと)討論・議論など。
ぐどつくぐずぐずと考え込む、同じところを堂々巡りする。
上手を取る議論や知恵比べで相手に優ること。
白き理反対の視点・異なる観点に基づく論理。
裏廻り・物疑ひ人の言動の裏を読む、邪推すること。

三、全体の現代語訳(まとめ)

議論をするとき、人の言い分に「もっともだ」と同調しているだけでは、相手の上をいく理屈を見出すことはできない。
まったく異なる視点から、「いや、実はこういう理屈もあるのでは」と考えることで、次元の違う新たな論理が見えてくる。
相手に伝えるときは、感情を害さないように気をつけ、無理なら内心でまとめておくこと。
こうした思考法は、勘ぐりや疑念から出るものではなく、正々堂々とした思索の結果である。


四、解釈と現代的意義

🎯 要点

  1. 異次元思考のすすめ
     同じ土俵で考えず、「あえて逆の前提」から思考を展開することで、本質を突くことができる。
  2. 正対する思索 vs 邪推
     ここで説かれるのは、論理的思考の高みであって、相手をおとしめる裏読みや中傷ではないという点に注意すべき。
  3. 伝えるべきか、胸に秘めるべきかの見極め
     発言のタイミングや相手の受け取り方も計算して、戦略的に議論を運ぶ柔軟さが重要である。

五、ビジネスにおける応用

シーン応用法
商品企画会議他社が「価格重視」で来るなら、「価値重視」の路線を提示して差別化するなど。
トラブル対応相手のクレームにそのまま同調せず、別の視点から解決策を提示する。
プレゼン・交渉「反対意見を先取りして、それより高い論理で打ち返す」ことが説得力につながる。
上司・部下との面談ただ受け入れるだけでなく、建設的な“別解”を示すための逆発想が有効。

六、ビジネス用の心得まとめ

「同じ目線で考えるな――異なる視点に真の上手がある」

議論に勝つためには、まず思考の次元をずらすこと。
正対して考えた末に得た理であれば、相手を打ち負かすのではなく、相手を納得させて引き上げることすらできる。


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