目次
一、原文と逐語訳
原文:
口論の時心持の事 随分もつともと折れて見せ、向ふに言葉を尽くさせ、勝ちに乗つて過言をする時、弱みを見て取つて返し、思ふほど言ふべし。 (聞書第十一)
現代語訳(逐語):
口論のときの心がけとしては、まず「なるほど、それはもっともです」といったように、相手の言い分にいったん折れて見せ、相手に存分に言わせる。
相手が調子に乗って、言い過ぎてしまったときに、その弱点を見抜いて反撃に転じ、自分の言いたいことをしっかりと述べるべきである。
二、用語解説
用語 | 意味 |
---|---|
折れて見せる | 表向き相手に同意する態度をとること。 |
言葉を尽くさせる | 相手の主張・言い分をすべて引き出すこと。 |
勝ちに乗って | 相手が優位に立ったと思い込んで、油断する様子。 |
過言 | 言い過ぎ、あるいは不適切な表現。 |
弱みを見て取る | 相手の論理や態度の欠陥を見抜くこと。 |
三、全体の現代語訳(まとめ)
口論を制するには、まず相手の主張にいったん同意するような態度を見せて、言いたいだけ言わせることが大切である。
そのうちに、相手は調子に乗って本音を言いすぎたり、矛盾を見せたりするものだ。
そこに鋭く切り返すことで、自分の主張が効力を持つ。
この“受けから攻めへの切り替え”が、口論に勝つ極意である。
四、解釈と現代的意義
この戦術的なアプローチは、ただの喧嘩術ではなく、戦略的対話術と解釈できます。ポイントは以下の通りです。
🎯 要点
- すぐに否定しない:最初に相手の言い分を遮らず、共感的態度をとることで、相手の本音や論点の甘さを引き出せる。
- 自己抑制:感情的にならず、冷静に“言わせきる”ことで相手に油断させる。
- 的確なタイミングで反撃:相手が言いすぎて足元をすくわれる瞬間を逃さず、一言で流れを変える。
これは単なる「勝つ」ためだけでなく、無益な感情の応酬を避け、論理で相手を説得する手段とも捉えられます。
五、ビジネスにおける応用
シーン | 応用法 |
---|---|
会議での異論調整 | いったん「なるほど」と受けて、相手に十分説明させたあと、矛盾点を指摘する。 |
クレーム応対 | 相手の主張を最後まで聞いた後、「そこに関してはこちらにこのような背景がございます」と切り返す。 |
交渉の駆け引き | 相手が価格・条件などで優位に出たときに、相手の弱点を突いて逆転の交渉を展開する。 |
このように、「一歩引くことで三歩進む」姿勢は、現代ビジネスにおいて極めて有効です。
六、ビジネス用の心得まとめ
「勝つためには、まず譲れ――折れてこそ見える敵の隙」
反論はすぐにすべきではない。まず全体を聞き、相手の“調子”が過ぎたところに的確に切り返せば、対話も議論も自分の掌中に収まる。
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