MENU

口は徳をも損ね、信頼も得る――言葉遣いは人柄の写し鏡


目次

一、原文と逐語訳

原文:

総じて議人を深くお嫌ひ遊ばされ候。
召させられ候人など、延引の時分、「何某は未だ罷出でず候や」とお尋ね候節、
「未だ罷出で申さず候」と申上げ候へば、
「朋輩を倒し申す心入の者なり」と仰せられ候に付て、
出仕延引の時も、「何と御座候や、見合ひ申すべく候」と申し候て、
御前を立ち、使など遣はし候由。
また、「斯様の不調法何某仕り候や」と御意の時も、
誰と申し候儀これなき由。

逐語訳:

鍋島光茂公は、他人を批判するような言い方を非常に嫌った。
たとえば、召された者が遅れているときに「某はまだ来ておらぬか」と尋ねられて、
「まだ参っておりません」と答えると、
「同僚を貶める気持ちがある者だ」と受け取られてしまった。

そのため家臣たちは、遅れている者について問われた際には、
「様子を見てまいります」と言ってその場を離れ、使いを遣わすようにしていた。
また、「このような不始末は誰がしたのか」と問われても、
誰かを名指しするようなことは控えたという。


二、用語解説

用語解説
議人(ぎじん)他人のことを論評・批判する人
罷出でず候(まかりいでずそうろう)出仕しておりません
倒す心入(たおすこころいり)陥れようとする意図
不調法(ふちょうほう)失礼、しくじり、不始末

三、全体現代語訳(まとめ)

鍋島光茂公は、人の悪口や告げ口のような発言を極端に嫌った人物である。
誰かの遅刻や失敗について尋ねられても、それをそのまま報告するのではなく、
相手を傷つけず、かつ事態を解決できる言い方が求められた。

たとえば「まだ来ておりません」と正直に言っても、
それが悪意ある報告と受け取られ、かえって自分の印象を悪くしてしまうこともあった。

そのため家臣たちは「様子を見てまいります」といった配慮のある表現を使い、
誰かの不始末を問われても名指しを避けるよう心がけていた。


四、解釈と現代的意義

この章句が伝えるのは、言葉に込める「心の姿勢」が人間関係を左右するということである。

たとえ事実を述べていても、その言い方が他人を貶めたり、
場の空気を悪くしたりするものであれば、それは**「真実の裏切り」**になる。

逆に、相手を思いやる言葉を選ぶことで、
場の和を保ち、自身の評価も高めることができる。


五、ビジネスにおける応用

シーン言い方の工夫
遅刻・不在の報告「○○さん、今向かっていると思いますので、確認してまいります」
ミスの報告「この点に問題が見つかりましたので、対策を講じております」
(個人名は後に必要であれば)
上司への進捗説明「全体は順調に進んでいます。◯◯の部分にやや課題がありますので、対応中です」
苦情対応「ご不便をおかけしているようで申し訳ありません。こちらで確認させていただきます」

→ いずれも、“責任を押し付ける”のではなく、“状況を自分ごととして捉える”表現が信頼を生む。


六、まとめと教訓

「言葉は単なる伝達手段ではなく、人格の反映である」

この章句は、「事実をどう表現するか」が、自分自身の品格や信頼を決定づけることを教えてくれます。

表現を工夫し、相手を思いやる姿勢がある者こそが、
信頼され、長く人を動かす力を持つのです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次