目次
一、原文と逐語訳
原文:
当時の差合ひになりさうなる事を言はぬものなり。気を付け申すべきなり。
世上に、何かと、むつかしき事などこれある時は、皆人浮き立つて覚え知らずに、その事のみ沙汰する事あり。
無用の事なり。わろくすれば、回引張りになるか、さなくても、日故に入らざる事に敵を持ち、遺恨出来るなり。
左様の時は他出を止め、歌など案じて居たるがよく候由。
逐語訳:
- 時勢に関わりそうなことは、最初から口に出さないのがよい。注意が必要である。
- 世間に何か事件や騒動が起こると、人々は興奮して無意識のうちにその話題に熱中してしまう。
- しかしそれは無用のことであり、下手をすれば巻き込まれるか、そうでなくても関係のないことで敵を作ったり、恨みを買ったりすることになる。
- そのようなときには外出を控え、和歌などを詠んで心静かに過ごすのがよい、とのことである。
二、用語解説
用語 | 意味 |
---|---|
当時の差合ひ | 時事問題・時勢にかかわる事柄 |
覚え知らず | 無意識に、気がつかずに |
回引張り(まきひっぱり) | 事件などに巻き込まれること |
日故(にちゆえ) | とくに理由もない、無関係な事柄 |
他出 | 外出のこと |
三、全体の現代語訳(まとめ)
世の中で騒ぎが起こっているときには、それに関わるような発言は最初からしない方がよい。
誰もがそわそわしがちで、軽々しく噂話に熱中してしまうが、それは慎むべき態度である。
口にしたことで、無関係なはずの自分が事件に巻き込まれたり、思わぬ敵をつくったり、恨まれたりするおそれがある。
そんなときこそ、むしろ外出を控え、静かに和歌を詠んで心を鎮めているのがよいのだ。
四、解釈と現代的意義
この教えは、「口は災いのもと」という古今東西の真理を端的に説いています。
特に現代では、SNSやメール、チャットなどを通じて、発言が記録に残りやすく拡散しやすい環境です。
- 軽はずみな投稿が炎上や信用喪失につながる
- 無意識のコメントが人間関係を壊す
- 無関係な騒動への言及がトラブルを招く
こうした事態を避けるためには、「言わぬが花、沈黙は金」の姿勢を堅持することが求められます。
五、ビジネスにおける応用
シーン | 実践例・アドバイス |
---|---|
社内トラブル時 | 状況が不明瞭な段階では、軽々しく意見や憶測を述べない。信頼できる筋の指示を待つ。 |
SNS運用・発信 | 時事問題や社会的議論に対して、立場が曖昧なときは沈黙を守るのも賢明。 |
上司・同僚との会話 | 噂話には加わらない、話題を避ける。必要でない限り意見を控える。 |
クライアントとの商談 | 他社批判・他業界の話題への軽率な言及を避ける。自社の姿勢を貫く。 |
六、まとめと教訓
「一言が命取り。沈黙こそ最良の策」
興味本位の発言が、自らの立場を危うくすることがある。
特に混乱期や騒動時には、軽口・軽率な意見ほど危険なものはない。
それよりも、「和歌を詠むように静かな時間を過ごす」──この比喩のように、心の静けさが最大の防御になるのです。
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