一、原文と逐語現代語訳
原文:
諫言の仕様が第一なり。何もかもお揃ひなされ候様にと存じ候て申上げ候へば、お用ひなされず、かへつて害になるなり。
お慰みの事などは如何様に遊ばされ候ても苦しからず候。
下々安穏に御座候様に、御家中のもの御奉公に進み申し候様にと思召され候へば、下より御用に立ちたくと存じ候に付て、御国家治まる儀に候。これは御苦労になり申す事にてもこれなく候と申上げ候はば、御得心遊ばさるべく候。
諌言意見は和の道、熟談にてなければ用に立たず、吃としたる申し分などにては当り合ひになりて、安き事も直らぬものなり。
現代語訳(逐語):
諫言は、その「言い方(方法)」が最も重要である。すべてを完璧にすべきと申し上げるようでは、むしろ受け入れられず害になる。
趣味や遊びなどのことについては、どうなさっても問題はございません。
民衆が安穏に暮らし、家臣たちが心から御奉公に励むようにとのお気持ちさえおありでしたら、下の者たちは進んでお役に立ちたいと思い、それによって国家は自然と治まっていくものでございます。
これは殿にとってご苦労の多いことではございませんよと申せば、きっとご納得くださることでしょう。
諫言や意見というものは、「和」の心でじっくり話し合う形でなければ意味がありません。
角の立つ言い方をしてしまえば、たとえ簡単なことでも受け入れられなくなるものです。
二、用語・背景解説
用語 | 解説 |
---|---|
諫言(かんげん) | 目上に対して過ちや改善点を進言すること。 |
吃としたる申し分 | 断定的でキツイ言い方。語気が強く、角が立つ表現。 |
和の道 | 和をもって調和する態度。争わず、調和を重んじる姿勢。 |
熟談 | 落ち着いた対話。時間をかけ、柔らかに本音を引き出し合うこと。 |
三、解釈と現代的意義
1. 「正論」は伝わらないこともある
- 正しいことを言っても、伝え方が悪ければ、相手の心は閉じる。
- 相手がトップや年長者であればあるほど、プライドと責任感の“盾”があることを理解すべき。
2. 諫言の本質は「関係を壊さず、気づきを促す」こと
- 諫めることが目的ではなく、改善が実行されることが目的である。
- そのためには、対話による共感と納得の形成が不可欠。
3. 完全を求めるより、“共に善くなろう”という意図を伝える
- 「少しでもよくなれば国は治まる」というメッセージは、善意ある寛容な視点。
- 「できている部分」は尊重しつつ、「改善の余地」に対して寄り添って提案する。
四、ビジネス・現代社会での応用
シーン | 実践アプローチ |
---|---|
上司への進言 | ・「○○の件、とても良い方針だと思います。ただ一点だけ、気になる部分があります」など、クッション言葉と共感から入る。 |
組織改革への提案 | ・「この点をこう変えれば、現場の士気がさらに高まると思います」など、相手の意図を前提にする。 |
部下へのフィードバック | ・「頑張ってるのは伝わってる。でも、ここを少し変えればもっとよくなるよ」など、人柄や努力をまず認める。 |
家庭や親子関係 | ・頭ごなしの叱責ではなく、「あなたの気持ちはわかる。でもこうしてくれたら皆がもっと助かるよ」と感情を受け止めたうえで諫める。 |
五、まとめ:諫言の心得
● 「方法」こそが諫言の生命線
● 正義感だけで動くと、誤解されやすくなる
● “指摘”ではなく“提案”の形をとる
● 一緒に善くなろうという「和」の精神で臨む
● 完璧さを求めるより「納得できる一歩」を促す
🌟結論:「諫言は、心を通わせる芸である」
諫言とは、戦いではなく和解の道。
相手の心を尊重しながら、誠意と配慮で「気づき」を生み出すことが真の目的です。
正義より対話、批判より敬意。これこそが、組織・家庭・社会の安定をもたらす真の“諫言力”といえるでしょう。
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