一、原文の引用と逐語訳
侍は人を持つに極り候。なにほど御用に立つべくと存じ候ても、一人武辺はされぬものなり。
金銀は人に借りてもあるものなり、人は俄になきものなり。かねてよく、人を懇に扶持すべきなり。
人を持つ事は、我が口に物を食ふてはならず、一飯を分けて下人に食はすれば、人は持たるるものなり。
現代語訳(要約)
侍にとって最も大事なのは「人を持つこと」である。
どれほど自分が優れていても、戦(仕事)は一人ではできない。
金は借りられるが、人は急に手に入らない。
だからこそ、日ごろから人を誠実に支え、育てておく必要がある。
部下を持つには、自分だけで食べていてはならず、一膳の飯を分け合ってこそ、信頼と忠義を得ることができる。
二、用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
扶持(ふち) | 支援し、養うこと。ここでは精神的・物質的支援の両面を意味する。 |
一飯を分けて食わす | 単に物を与える以上に、心を通わせる関係構築の象徴的な行為。 |
俄になきものなり | 人材は「にわかには得られない」=長期的な関係の蓄積が不可欠であるという意味。 |
三、全体の現代語訳(まとめ)
どれほど優れた武士(リーダー)でも、一人では事を成せない。
金は借りることができても、人材は急に用意することはできない。
だからこそ、日頃から部下を丁寧に育て、支え、信頼関係を築く必要がある。
そのためには、自分だけが得をするのではなく、日々の食事や行動をも分かち合い、共に生きる姿勢を持つことが大切だ。
そうして初めて「命をかけて仕える部下」が育つ。
四、解釈と現代的意義
この章句は、「リーダーの実力=人を従わせる力」ではなく、「人を信じ、共に歩む姿勢で築かれる」という視点を教えてくれます。
現代においても、次のような意味を持ちます:
- チームワークの本質は信頼にあり、それは日常の行動で築かれる
- 成果は個人ではなく、支え合う人間関係によって生まれる
- 報酬や命令だけでは、真の部下(協力者)は育たない
五、ビジネスにおける解釈と適用
項目 | 解釈・実践方法 |
---|---|
人材マネジメント | 部下を「戦力」としてではなく「同志」として育てる意識が信頼を築く。 |
リーダーの在り方 | 自分だけが成果を享受するのではなく、日頃から「分かち合う」姿勢が求心力になる。 |
チームビルディング | 成果や苦労を共に分かち合う文化が、いざというときの団結力を生む。 |
サステナブルな人材戦略 | 急な採用や配置転換に頼らず、日々の関係構築で未来のリーダーを育てる。 |
報酬以外のインセンティブ | 一飯を共にする=言葉にできない信頼の共有。心理的安全性の象徴。 |
六、心得まとめ
● 人材は“借りられぬ資本”、育てるしかない。
● 日々の分かち合いが、忠義と信頼の礎を築く。
● 才覚よりも、人を信じ、人に信じられることが、リーダーの真価である。
● いざという時に動いてくれる人材は、**日頃の心配りが育てる“無形の財”**である。
目次
🌟結論:人材は一日にして成らず。誠と分かち合いが人をつくる。
- どんなリーダーも、一人では勝てない。勝敗は“人材の備え”にあり。
- 信頼は、日々の小さな“行い”の中に宿る。
- 部下とは“使うもの”ではなく、“共に在るもの”――それを忘れぬことが、家も企業も永く栄える道である。
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