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人の誇りを折るなかれ、それは命より重い


一、原文と現代語訳(逐語)

原文抄(聞書第十)

「侍たる者は拷間におよんで死後までの恥と存じ、無き科をも引受け申す事歴然に候。以来侍の拷問無用」と申付けられ候由。

「下々の者は、端不義をも仕るものに候。死罪には及ぶまじき」
「この者以後の締りになり、重ねて盗賊出来仕るまじく候。もし盗賊出来候はば、家老ども不調法に罷成るべき由、証人差出し申すべきや」

現代語訳(逐語)

「侍とは、拷問にかけられることを死後までの恥と感じ、たとえ無実でも罪を引き受けてしまう。
このことが明らかになった今、今後は武士に対して拷問をしてはならぬ」と頼元公は申し付けた。

またあるとき、盗みを働いた者を死罪にすべきとの家老の進言に対し、
「下々の者は多少の不義を働くものだ。死罪にするほどではない」
「では殺してもよい。だがそれで盗賊が二度と出ないと誓えるか? 出たらそなたたちの責任とするぞ」
この問いかけに家老たちは理に伏し、盗人は助命された。


二、用語解説

用語解説
拷間(ごうかん)拷問。自白を引き出すための強制手段。
侍の拷問無用武士の誇りを傷つけてまで強制的に真実を求めることの否定。
不義不正な行い、罪。ここでは特に下級階層の者による軽微な犯罪を指す。
締り(しまり)規律、治安。ここでは「見せしめ効果」による統治手段の意。

三、全体の現代語訳(まとめ)

久留米藩主・有馬頼元公は、家老たちの進言を退け、**「侍に拷問を行うな」「下々の者をむやみに死罪にするな」**と判断した。
なぜなら、武士という者は「誇り」に生きる存在であり、その誇りを踏みにじるような処遇(たとえば拷問)は、たとえ制度上の正当性があっても破ってはならぬ“人の道”に反すると考えたからである。


四、解釈と現代的意義

この章句が訴えているのは、形式的な制度や統治の論理よりも、「人間としての尊厳をどう守るか」が統治者の本質的な力量であるということです。

  • 頼元公は、侍が無実でも「拷問されれば死後の恥として受け入れてしまう」ほどの誇りを持つ存在であると理解していた。
  • また、「軽微な不義」で民を死罪にすれば、確かに秩序は一時的に保たれるかもしれないが、恐怖で築いた秩序には真の忠誠も成長も生まれないと見抜いていた。

このように、組織や社会の秩序は、“尊厳を尊重する文化”によってこそ持続可能なものになるという哲学が込められています。


五、ビジネスにおける解釈と適用(個別解説)

項目解釈・適用例
部下のマネジメント部下の失敗や疑惑に際して、“信じる姿勢”を崩さず、威圧や公開叱責を避けることが、信頼と忠誠を育む。
組織文化づくり規律重視・管理重視の文化ではなく、「人の尊厳」を第一に置いた風土が、長期的な人材育成と定着をもたらす。
クライシス対応問題が起きたときこそ、“真に尊重されているかどうか”が試される。制度よりも「人を見る」判断が求められる。
リーダーシップ「拷問」や「見せしめ」のような強制力ではなく、人を活かす包容と洞察が、リーダーの真価となる。

六、補足:「誇り」は人間の根幹である

頼元公の判断は、単なる情けや人情ではありません。
誇りを失った人間は、組織の中で力を発揮できなくなるということを、政治家・リーダーとして深く理解していたのです。

「侍は誇りを持っている。
だからこそ、誇りを折るようなことをしてはならぬ」

この思想は、『葉隠』が一貫して重視する**“意地”や“面目”の核心**に通じます。


七、まとめ:この章句が伝えるメッセージ

  • 武士にとって、誇りは命より重い。
  • 統治や管理の論理が人の尊厳を軽んじるとき、真の忠誠も秩序も生まれない。
  • リーダーに求められるのは、**「制度を使って人を裁く力」ではなく、「人の誇りを見抜き、守る力」**である。
  • 見せしめ・恐怖政治よりも、「信頼と敬意」が人を動かす。

目次

🔚現代への置き換え:

「人の誇りを守ること。それが組織を強くし、信頼を築く唯一の道である」


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