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立ち上がる者が、先頭を行く


一、原文と現代語訳(逐語)

原文抄(聞書第十一)

人は立ち上る所なければ物にならず。人より頭を踏まれ、ぐづぐづとして一生を果すは回惜しき事なり。
誠に夢の間なるに、はつきりとして死にたきことぞかし。ここに眼の付く者稀なり。

「彼も人なり、鬼神にてはなし、少しも劣るべき謂れなし、もし誰々に乗越えずんば腹掻切つて死ぬべし」

一念発起すれば則ち立ち上ることなり。

「手に吹毛剣を握り、触着する所劉却せざるなし」と云ふ句などを力にすべしと。

現代語訳(逐語)

人は、どこかで本気で立ち上がらなければ、何ものにもなれない。
他人の下に甘んじ、うだうだと一生を終えることは、実に口惜しいことだ。
人生はまばたきの間のように短いのだから、はっきりした覚悟をもって生き切りたい。
家老や名僧を見て、「彼らも人の子、決して自分より特別な存在ではない。どうして劣る道理があるか。もし超えられぬなら、潔く腹を切る」と決意して立ち上がれば、その瞬間からすでに人の上に立つことになる。
成果を積んでからなどと考えるのは悠長すぎる。一念発起がすなわち出発点である。
決意しても踏み出せぬときは、「吹毛剣を手にし、触れるもの全てを断つ」という禅句を支えとせよ。


二、用語解説

用語解説
吹毛剣(すいもうけん)毛を吹きかけただけで切れるとされる伝説の剣。迷いや躊躇を断ち切る「悟りの力」の象徴。
一念発起ある決意を胸に、大きな志を立てて行動に移すこと。
腹掻切って死ぬべし誇張を込めた覚悟の象徴。命を賭してでも超えようという意志の比喩。
鬼神超常的な存在。つまり、「彼らも自分と同じ人間である」と言うことで、過度な崇拝を否定している。

三、全体の現代語訳(まとめ)

人は、「このままでは終わらぬ」という決意をもって立ち上がらなければ、何者にもなれない。
世に名を残すような人物を見ても、「彼らも人間、自分が劣る理由などない」と自らを奮い立たせるべきである。
その決心こそが、人の上に立つための第一歩であり、実績や地位はその後からついてくる。
迷いや雑念に取り憑かれるようなときには、「吹毛剣をもって迷いを断て」という禅の教えを支えとせよ。


四、解釈と現代的意義

この章句は、「人の上に立つ」ということを、地位や序列ではなく、覚悟と奮起の有無で定義しています。
つまり、「心の決断をもって立ち上がる者」こそが、その瞬間から他者の先を行くのだ、という教えです。

  • 常朝は「一念発起」=「その場で超越する力」と捉えており、「実績を積んでから」では遅いと断言しています。
  • 他人に踏まれたまま終わることへの反発、そこに反骨精神と行動主義が結びついています。

これは、怠惰や保身の言い訳に慣れてしまった現代人に対して、**「いま決断せよ」**という檄です。


五、ビジネスにおける解釈と適用(個別解説)

項目解釈・適用例
キャリア形成「あとでやる」「いつか認められる」ではなく、今この瞬間に立ち上がる覚悟が成長の鍵。
リーダーシップ他者を超えるための原点は、「他人も自分と同じ人間」と見抜き、怯まぬ心を持つこと。
チャレンジ精神不確かな未来を恐れるより、「失敗してでも挑む」強さこそが、成功を呼び寄せる。
決断力迷いを断ち切る思考ツールとして、「吹毛剣」のように心を研ぎ澄ます精神が必要。

六、補足:「吹毛剣」の本義と禅的解釈

「吹毛剣」とは、単に鋭利な武器ではなく、「一切の迷いを断つ“智慧”」の象徴です。
巴陵禅師の「珊瑚の技にかかる月」という言葉は、計らいのない自然な直感力こそが、最も鋭い判断力であるという意味を含みます。

つまり、吹毛剣とは――
知識でも、準備でもなく、いまこの瞬間の「直感と覚悟」がすべてを切り開くという、行動の哲学でもあるのです。


七、まとめ:この章句が伝えるメッセージ

  • 成長や成功は、「決意の瞬間」に始まる。
  • 他人を崇めず、同じ人間として対等に捉えることで、恐れを越えられる。
  • 志なき者は沈むが、覚悟した者は、たとえまだ無名であっても、すでに抜きんでている。
  • 人生は短い。迷うより、決断せよ。
  • 「吹毛剣」――それは、心の中の迷いを断ち切る一閃である。

目次

🔚現代への置き換え:

「いまこの瞬間の決意が、人生の主導権を握る鍵である」


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