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大難は、飛躍の浮力となる


一、原文の引用と現代語訳(逐語)

原文

大難大変に逢ふても動転せぬといふは、まだしきなり。
大変に逢ふては歓喜踊躍して勇み進むべきなり。
一関越えたる所なり。
「水増されば船高し」といふが如し。

現代語訳(逐語)

大きな困難や災難に遭っても動じないというのは、まだ中途半端な心構えである。
本当に備えができている者は、むしろ困難に遭ったとき、喜び勇んで前進すべきである。
それはひとつの関門を越えた地点にある心持ちである。
「水かさが増せば、船もそれに応じて高く浮かぶ」と同じである。


二、用語解説

用語解説
まだしきなり未熟である、中途半端であるの意。
歓喜踊躍喜び踊るほどの感情表現。ここでは「むしろ喜べ」という逆説的な勇気の発露。
一関越えたる所一段上の覚悟・心境に達した境地を指す。
水増されば船高し困難(=増水)が大きいほど、人物(=船)は高く浮き上がるという喩え。

三、全体の現代語訳(まとめ)

「どんなに大きな困難にも動じない」――それは素晴らしいが、まだ一段階手前の状態である。
本当の覚悟とは、困難を「機会」として喜び、飛び込んでいける精神である。
それは、まるで水が増せば船が高く浮かぶように、
逆境を原動力に変えることができる者だけが、高く飛躍できるという教えだ。


四、解釈と現代的意義

この章句の核心は「逆境を歓びに転換する心」

現代で言えば、困難を前にして「冷静に対応する」のは基本スキルですが、
常朝が説くのはそれを超えて、「困難がきた、むしろ好機だ」と喜べる一段上の心構えです。

それは、スポーツで言えば「プレッシャーの場面で燃える選手」、
ビジネスで言えば「修羅場で本領を発揮するプロ」の姿に近い。

「一関越えたる」とは何か?

これは一種の悟りでもあり、メンタル転換のスイッチでもあります。
ある種の苦難を乗り越えた人間だけが到達できる「心の構え方」。
この境地に達した人は、外の状況によって一喜一憂しない、揺るぎない強さを持ちます。


五、ビジネスにおける解釈と適用(個別解説)

シーン解釈・適用例
危機対応・障害発生時「今こそ組織の底力を試すとき」としてメンバーを鼓舞し、自ら率先して動くことで士気を高める。
新規事業でのトラブル発生「この試練は我々にとっての踏み台」と位置づけて、失敗を飛躍の起点にする。
経営判断における逆風時市場の逆風や不安を、「変化のチャンス」「他社が撤退する今が動く時」と捉える視点の転換。
メンバー育成・マインド教育「問題は成長の素材」として若手に学びを与え、ピンチを“成功体験のタネ”にする。

六、補足:現代心理学におけるレジリエンスとの共通性

この「歓喜踊躍して勇み進むべき」という精神は、
現代心理学でいう**「レジリエンス(逆境から立ち直る力)」の最高段階**にあたります。

単に回復するだけでなく、逆境を通して自らを成長させる=**「ポスト・トラウマ成長(PTG)」**の域です。


目次

七、まとめ:この章句が伝える心得

「災難は、高く浮くための水かさである」
大きな困難に直面したら、心の中で「来た!」と喜べ。
それは、自分が次の段階に進むチャンスである。
喜び勇んでぶつかる者にだけ、逆境の波は**「飛躍の浮力」**を与えてくれる。


困難や危機は避けるものではなく、「燃える機会」として捉える――
それが『葉隠』が説く、“真の強者の心の構え”です。

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