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命を懸けて七度言え ― 諫言に「道理」より「誠」の貫通力を


目次

一、章句の要約

この章句には、主君への諫言の極意が二つの逸話を通して語られます。

●逸話1:相良求馬(さがら ぐま)

殿(鍋島光茂)に強く諫言して怒りを買い、切腹を命じられる。使者に対し「申し残したことがある」と伝え、切腹前に再び強い諫言を主君へ託す
結果、殿は「切腹を待つように」と命じ、求馬の言は聞き入れられた。

●逸話2:中野数馬(なかの かずま)

藩士数名が切腹を命じられた件で、第三代藩主・鍋島綱茂に対し「助けてください」と進言。
「道理はあるのか?」と問われ、「道理はございません」と答える。
以後、七度同じ言葉で諫言を繰り返す。ついに綱茂は「助ける時機か」と思い直し、赦免を下す。


二、核心思想:道理より誠、命より志

『葉隠』はこの二つの逸話を通じ、主君への諫言とは:

  • 命がけで貫くべきものであり、
  • 論理や策略ではなく「誠」と「覚悟」が通じる世界である

と説いています。

諫言は、ただの説得ではなく「一命を懸けた真心の訴え」でなければ通じない。
一度や二度で諦めるようでは“自己保身の言い訳”にすぎず、誠意と死志が試されている場なのです。


三、武士道的諫言の条件

要素内容
相手を思い、心底から絞り出された言葉であること。
一徹一度決めたことを曲げず、何度でも繰り返す覚悟。
命懸け聞き入れられなければ自らの死をもって完遂する気構え。
道理に頼らぬ言葉の正しさや筋道ではなく、魂で訴える。

→ 特に中野数馬の「道理はございません」という返答は、常識を超えた“忠義の極致”です。


四、現代的解釈と応用:何度でも、ぶれずに言い続ける力

現代社会においても、この教えは応用可能です。

状況応用例
経営層への進言数字や理屈だけでなく、現場目線と覚悟ある訴えを貫く。
理不尽な決定の撤回要望「正論」より「本気」「しつこさ」「諦めない姿勢」が相手の心を動かす。
大きな改革提案一度却下されても、数を重ねて根気強く訴えることが突破口になる。
部下や仲間をかばう場面「理由はないが、助けたい」という純粋な心情が最後に力を持つ。

五、補足:「意見をしない」ことへの批判

この章句の冒頭で山本常朝は、「主君に意見せず従うべし」という保身的風潮を強く否定しています。

「主君に意見すれば怒られるから言わない」
→ それは「事なかれ主義」という卑怯な言い訳

**“誠の言葉は、命を懸ければ必ず通じる”**という信念がこの物語の根幹にあります。


✅心得要約:七度言え、命懸けで言え。それでこそ、誠は貫ける

たとえ道理が通らずとも、
たとえ怒りを買おうとも、
「この者たちは、お助けください」と
七度言いきった数馬の姿は、
武士の諫言とは死の所作であることを示す。

沈黙は保身、繰り返しは忠義。
命を捨てた言葉だけが、主君の耳に届く。

それが『葉隠』の語る誠の言葉の力である。

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