目次
一、山本常朝の赤穂義士批判の要点
批判点 | 内容 |
---|---|
❶ 仇討ちの遅延 | 浅野内匠頭切腹から吉良上野介討伐まで1年9ヶ月もかかった。 ➡「もしその間に吉良が病死していたらどうするつもりだったのか」 |
❷ 討ち果たしても即座に切腹しなかった | 泉岳寺で潔く腹を切らなかったのは「落度(おちど)」である。 |
❸ 勝ちを狙う計算があった | 「なんとか成功させたい」「味方が多ければ勝てる」という分別(=打算)により、「恥」を免れたとは言えない。 |
❹ 上方衆の知恵への皮肉 | 「上手に褒められるようにやっただけ」。佐賀藩士の“長崎喧嘩”のような無分別の忠義とは質が異なる。 |
二、常朝が賞賛する「無分別な忠」とは何か?
『葉隠』において最高の忠義とは、「勝敗や理屈を超えた即断即行の誠」です。
🔥 長崎喧嘩の例(元禄12年)
- 藩士が辱められた → 即報復 → 相手を斬殺 → その場で切腹
- 勝ち負けや後日の処分を一切顧みず、一念で行動し、死に様を整えた
これが常朝にとっての理想的な武士の振る舞いであり、対して赤穂浪士の計画性や手続き的行動は、「誠ではなく計算」と映ったのです。
三、「曲者(くせもの)」という武士道の理想像
常朝は繰り返し「曲者」という言葉を用いていますが、ここでの意味は単なる“強者”ではありません。
曲者=知恵も腕も捨てて、死を恐れず無二無三に突き進む者
つまり、「勝とうとしているうちはまだ未熟」、「勝敗を捨てた時に真の誠が見える」という教訓を具現化した存在です。
四、現代における応用と教訓
この赤穂義士批判から導かれる現代の教訓は、**「行動の純度」「判断の即断性」「美談よりも実行」**の大切さです。
状況 | 教訓・応用 |
---|---|
危機対応・意思決定 | 状況を伺いすぎて動かないのは、結果的に恥を残す。負けてもいい、動くことが誠。 |
組織の忠義・文化 | 上司や仲間を守るために動くのなら、「相談の準備」より「直行動」が信頼を生む。 |
挑戦・創業 | 計算しすぎて動けないなら、それはまだ覚悟がない。「どうなろうとやる」という“狂気”が道を切り拓く。 |
誠意の表現 | 美しいプレゼンや準備ではなく、命を削ってでも果たす意思が、人を動かす。 |
五、『葉隠』が教える本当の武士道とは
- “死ぬ覚悟”ではなく、“今すぐ死ねる覚悟”
- 成功の保証より、恥をかかぬ行動
- 褒められるかどうかではなく、己の志に従うこと
「平生から覚悟を定めよ」
「勝敗は時の運、恥をかかぬ方法は一つ、即死の覚悟のみ」
この精神が、常朝の義士批判の背後にある哲学です。
✅心得要約:志を貫くとは、勝とうとせず、ただ貫くことである
赤穂義士が美談となる世にあっても、
山本常朝は声を上げた。
**「褒められるような忠義より、恥を恐れぬ無分別な死に様こそ本物」**と。
勝敗も計画もいらぬ。
誠を決めたならば、今すぐ踏み出せ。
それが『葉隠』の、そして真の武士道である。
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