目次
■原文(日本語訳)
第2章 第31節
クリシュナは言った。
「更にまた、あなたは自己の義務を考慮しても、戦慄くべきではない。
というのは、クシャトリヤ(王族、士族)にとって、義務に基づく戦いに勝るものは他にないから。」
■逐語訳
- 自己の義務(スヴァ・ダルマム):自分に課せられた本来的な務め・役割・使命。
- 考慮しても(アーピ・チャ):たとえ~したとしても。
- 戦慄くべきではない(ナ・ヴィクァンピトゥム・アルハシ):動揺したり、恐れたりすべきではない。
- クシャトリヤにとって(クシャトリヤスヤ・チャ):戦士階級に属する者として。
- 義務に基づく戦い(ダルマヤッダ):正義・秩序・責務に従った戦い。
- 他に勝るものはない(ナ・アパリヤム・スミャ・パシャティ):これ以上に尊いことはない。
■用語解説
- スヴァダルマ(自己の義務):ヴァルナ(階級)や人生段階に応じた、本来的な役割。社会的な職務・使命ともいえる。
- クシャトリヤ:王族・士族・軍人など、秩序と保護を担う戦士階級。アルジュナもこれに属する。
- ダルマヤッダ:個人的な感情による戦いではなく、「正しい戦い」「秩序を守るための戦い」。
- ナ・ヴィクァンピトゥム:怖じけるな、動揺するな、という命令形。
■全体の現代語訳(まとめ)
クリシュナはこう説きます。
「仮に魂の不滅を信じられなかったとしても、自分の義務という観点からも、
あなたは恐れたり迷ったりすべきではない。
クシャトリヤ(戦士)にとって、正義と秩序のための戦いに参加すること以上に尊い行為はないのだ」と。
ここでは、哲学的な魂の話から、社会的責任としての「役割の遂行」へと焦点が移っています。
■解釈と現代的意義
この節は、「自分の職分・役割を果たすことが尊い行為である」という現実的な視点を提示します。
逃げたい、避けたいと思う時でも、自分に与えられた立場・使命を果たすことが、人生の意義をもたらすのだという教えです。
「善悪」ではなく、「正義(ダルマ)」に基づいた戦い――それは、自我を離れ、より大きな秩序に貢献する行動です。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 解釈と応用例 |
---|---|
職責の尊重 | 自分の立場や役割を理解し、それを逃げずに全うすることが、組織や社会の信頼につながる。 |
困難な状況における勇気 | 意義ある責任に直面して怖気づくのではなく、自らの職務であるならば毅然と立ち向かう姿勢が問われる。 |
プロフェッショナリズム | 気分や感情ではなく、「これは自分の責務か?」という観点で行動することで、高い職業倫理を持つ人物となる。 |
使命感と内発的動機 | 上からの命令ではなく、「自分の役割としてこれをやるべきだ」という主体的な認識が、行動に力を与える。 |
■心得まとめ
「与えられた役割を果たすとき、人は最も尊くなる」
逃げたいときほど、目を背けず、
「これは自分のダルマ(役割)か?」と自問しよう。
役割に立ち向かう勇気が、人格と運命を形づくる。
それが、バガヴァッド・ギーターがアルジュナに伝える“行動の哲学”です。
この節を皮切りに、ギーターは「自己の義務とそれに従う行為」について、より具体的に説いていく章に入ります。
次の第32節では、「天の門(スヴァルガの門)」としての義務戦の尊さが語られます。
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