目次
■原文(日本語訳)
第2章 第10節
クリシュナは微笑して、両軍の間で沈みこむ彼に答えた。
■逐語訳
- クリシュナは微笑して(ハスン・イダー):アルジュナの苦悩と沈黙に対して、慈愛と智慧に満ちた微笑で応じる。
- 両軍の間で沈みこむ彼(タム・ウヴァーチャ・フリシューケーシャハ):戦場の中央、敵味方に挟まれ、行動不能になっているアルジュナ。
- 答えた(ウヴァーチャ):ここから、クリシュナの教え(ギーター本編)が本格的に開始する。
■用語解説
- ハスン(微笑して):皮肉ではなく、深い理解と慈悲に基づく、悟りの笑み。
- フリシューケーシャ:クリシュナの別名。「感覚の主」「感覚を支配する者」の意。アルジュナの内なる混乱に対応する存在。
- 両軍の間:カウラヴァとパーンダヴァという二大勢力の狭間=外的にも内的にも対立の中心。
- 沈みこむ(ヴィシャイダム・イーダム):悲しみ・迷い・無力感に飲まれている状態。
■全体の現代語訳(まとめ)
アルジュナが苦しみの末に沈黙したそのとき、クリシュナは穏やかに微笑み、沈み込む彼に向かって語り始めた。ここから、アルジュナの苦悩に対して、愛と智慧による本格的な「教え」が始まるのである。
■解釈と現代的意義
この節は、精神的な導師が弟子の限界を静かに受け止め、導きを与える瞬間を象徴しています。クリシュナは怒らず、焦らず、微笑みながら語り始めます。
それは、問題を解決しようと力づくで叱るのではなく、「理解すること」から始まる真の教育・リーダーシップのあり方です。
現代の私たちも、誰かが迷っているとき、まず“微笑み”と“沈黙への敬意”から関わる姿勢を学ぶべきです。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 解釈と応用例 |
---|---|
リーダーシップ | 部下やチームが混乱・迷いにあるとき、怒るのではなく、まず“安心と智慧”で場を整える姿勢が求められる。 |
コーチング | クライアントが問題に沈黙しているとき、問い詰めるのではなく、静かに待つことが変容の鍵となる。 |
対話の技術 | 問題を抱えた相手には、まず評価ではなく「受容」で応じることで、対話が開かれる。 |
危機対応 | ピンチの場面でこそ、リーダーの“表情・態度”が周囲に安心感と信頼をもたらす。 |
■心得まとめ
「沈黙する者に、微笑みで答える智慧を持て」
人が苦しみの果てに沈黙したとき、そこに寄り添い、導きを始める者こそが真の導師である。
ビジネスでも人生でも、人を動かすのは「言葉の強さ」ではなく、「受け止める姿勢と表情」なのだ。
この第10節をもって、いよいよ『バガヴァッド・ギーター』の本編たるクリシュナの教えが展開されていきます。次の節からは「永遠の魂(アートマン)」に関する深遠な哲学が語られます。
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