目次
■原文(日本語訳)
第2章 第5節
アルジュナは言った。
「まことに、威厳に満ちた師匠たちを殺さないで、この世で施しものを食べる方がよい。有益なことを望む師匠を殺せば、まさにこの世で、血にまみれた享楽を味わうことになろう。」
■逐語訳
- まことに(アピ):本当に、確かに。
- 威厳に満ちた師匠たち(グルーン・イハ):ドローナをはじめとする、自分が深く敬愛し、徳のある指導者たち。
- 殺さないで:自分の手で命を奪うことを拒む姿勢。
- 施しものを食べる方がよい(ブィクシャーム・アピーハ・ブーンジーヤー):乞食として生きる方がましだ。
- 有益なことを望む(アルタ・カーマーン):物質的成功・実利・現世的成果を求めて戦に加わっている人々。
- 血にまみれた享楽(ラクトプシュタム・ブゴーン):正義なき快楽。罪悪感に汚れた勝利と報酬。
■用語解説
- 施しものを食べる(バイクシャー):武士・王族にとっては最も屈辱的とされる生活。しかしそれでも正義に反するよりはマシであるという意味。
- グル(guru):単なる教師ではなく、精神的指導者。人格的にも敬われるべき存在。
- アルタ・カーマ:利得・欲望・自己利益を意味し、ダルマ(義)に反する動機を表す。
- ラクトプシュタ(血で肥やされた):不義や殺戮によって得られたものの不浄さを強調。
■全体の現代語訳(まとめ)
アルジュナは、戦争で師たちを殺すくらいなら、名誉を捨てて乞食のような生活をする方がまだましだと語る。彼は、たとえ戦いに勝って快楽や地位を得たとしても、それが血にまみれたものであれば、意味のない不浄な享楽に過ぎないと強く感じている。
■解釈と現代的意義
この節は、「成果」の正当性や倫理的重みを深く問いかけています。
現代でも、「結果が出れば手段は問わない」という風潮がありますが、アルジュナはそれを拒否します。「たとえ成功しても、その過程が正義に反していたら、その成果は血にまみれたものにすぎない」と。
倫理に反する手段で勝利を得ても、それは真の満足にはならない――これは、現代社会に対する強い問いでもあります。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 解釈と応用例 |
---|---|
成果主義への警鐘 | 短期的な成功を優先しすぎると、長期的な信頼や人間関係を損なう危険がある。 |
意思決定の倫理性 | 経営判断や競合との戦略において、倫理や誠実さを犠牲にした勝利は、組織文化やブランド価値を傷つける。 |
部下や師への態度 | 自分を育ててくれた人への感謝や敬意を忘れてはならず、たとえ利害が対立しても冷酷な手段をとるべきではない。 |
個人の誇りと選択 | 結果よりも「自分がそれをどうやって得たか」の方が、長い目で見たときに自分の誇りや信頼につながる。 |
■心得まとめ
「勝利よりも、どう勝ったかが問われる」
名誉ある敗北の方が、汚れた勝利よりも尊い。
真のプロフェッショナリズムとは、結果だけでなく「その過程と姿勢」に責任を持つことにある。自らの行動が誇れるものであるか――それを常に問いながら進むことが、本当の意味での“成功”をもたらす。
コメント