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■引用原文(日本語訳)
「もしドリタラーシトラの息子たちが、合戦において武器をとり、
武器を持たず無抵抗の私を殺すなら、それは私にとってより幸せなことだ。」
―『バガヴァッド・ギーター』第1章 第46節
■逐語訳(一文ずつ)
- もし、ドリタラーシトラの息子たち(=敵軍)が、戦場において武器を手に取り、
- 私(アルジュナ)が武器を持たず、抵抗しないまま立っていたとしても、
- 彼らがその私を殺すならば、
- それこそが、私にとっては、より良きこと、より幸福なことなのだ。
■用語解説
- 武器を持たず無抵抗(アヤッス・サンスタハ):戦う意思を持たず、自己の理念のもとに静かに死を受け入れる態度。
- より幸せなこと(シレーヤス):物質的・外的幸福ではなく、精神的・霊的な安寧と正しさを意味する。
- 殺すならそれもよし:非暴力・非協力による抵抗の倫理的立場とも関連づけられる。
■全体の現代語訳(まとめ)
アルジュナは、愛する者を殺してまで得る勝利よりも、
自ら武器を捨てて、敵に討たれる方が、
はるかに自分の魂にとって「幸せ」であると感じている。
彼にとって最も重要なのは「勝つこと」ではなく、「正しくあること」である。
■解釈と現代的意義
この節は、「命よりも正義を貫く」という覚悟が語られている場面です。
アルジュナは、親族を殺すという非道な勝利を望まず、
自分が倒される方が潔く、義にかなうとさえ思っているのです。
この姿勢は、ガンディーの非暴力抵抗にも通じる思想であり、
「正義に殉ずる」ことの価値を象徴しています。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
原則に殉じる姿勢 | 利益や勝利のために原則を曲げるのではなく、「正しい」と信じる行動を貫く強さが、長期的な信頼を築く。 |
非協力・沈黙も選択肢 | 不正義なプロジェクトには参加しない、あるいは自らの意見をもって静かに退くことも、尊い意思表示である。 |
勝利より誠実さ | 勝つことより、どう勝つか。立ち振る舞いが人格を作り、評価を決める。 |
リーダーの覚悟 | 自分が不利になっても、組織の理念や信義を守る判断をするリーダーは、周囲からの本物の敬意を得る。 |
■心得まとめ
「義に殉ずる覚悟が、真の勝利を導く」
アルジュナは、「勝つこと」ではなく「正しくあること」に価値を見出し、
たとえそれが敗北や死に至るとしても、それを受け入れる覚悟を示した。
現代の私たちも、誘惑や圧力の中で「自分の信じる正しさ」に殉ずることができるかを、
常に問い続ける必要がある。
この第46節をもって、アルジュナの苦悩と精神的葛藤は頂点に達します。
次章では、クリシュナの教え(ギーターの本論)が始まります。
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