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■引用原文(日本語訳)
「貪欲に心乱された彼らが、一族を滅ぼす罪と、友を害する罪悪を、もし見ることがなくても、」
―『バガヴァッド・ギーター』第1章 第38節
■逐語訳(一文ずつ)
- 「貪欲に心を奪われた彼ら(カウラヴァたち)は、
- 一族を破滅に導く罪、
- そして友情を裏切る罪を、
- たとえ理解しないとしても、
- 私たちは、それを見過ごしてはならない。」
※原文では主語が省略されており、39節に続く形で文意が完結します。
■用語解説
- 貪欲(ローバ):過剰な欲望。特に権力・支配欲に目がくらんだ状態。
- 心乱された(サンプラモーダハ):理性を失い、正しい判断ができない状態。
- 一族を滅ぼす罪(クル・クシェヤ):家族制度・伝統・道徳の崩壊をもたらす行為。単に血統の消失ではなく、社会秩序の崩壊を含意。
- 友を害する(ミトラ・ドーハ):信義・友情・同盟を裏切る不道徳。かつての関係を顧みず破壊する行為。
■全体の現代語訳(まとめ)
カウラヴァたちは欲望によって目が曇り、親族や友情を傷つけることの罪を理解できないでいる。
だが、彼らがその誤りに気づかないからといって、私たちまで同じように行動してよいわけではない――という自戒がここに込められている。
■解釈と現代的意義
この節は、「相手が道を誤っていても、自分の徳や節操を失ってはならない」という、極めて高い倫理観を示しています。
たとえ相手が不正・不義を行っていても、「やり返して当然」と考えることは、同じレベルに堕ちることを意味します。
現代社会でも、競争・対立・権利主張の場面で「相手が悪いから自分も強く出る」となりがちです。
しかしそのとき、自分の行動が「徳を保っているか」「本当に正しいか」を常に問い直す必要があります。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
倫理観の自律性 | 他社や他人が不正や暴力的な手段を使っているからといって、自社・自分もそれをまねてはならない。 |
誠実な対応 | 相手がルールを破っても、自分たちはルールと原則を守る姿勢が、長期的信頼につながる。 |
品格ある対処 | 無礼や攻撃的な相手に対しても、冷静かつ理性的に対応できる人は、周囲から尊敬される。 |
リーダーとしての模範 | 部下が怒りに流されそうなとき、リーダーが冷静な態度で「私たちは私たちの価値観を守る」と示すことが組織の信頼を支える。 |
■心得まとめ
「相手の誤りに引きずられて、自らの徳を汚してはならない」
カウラヴァたちが誤りを犯していても、アルジュナは「だから自分もそうする」とは考えない。
現代の私たちもまた、相手の非道に反応して自己を失うのではなく、自らの良識と価値観を守ることで、人間としての品格を保ちたい。
次の第39節では、アルジュナが「一族が破壊されることによって起こる社会的・道徳的な崩壊」について、より体系的に語っていきます。
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