目次
■引用原文(日本語訳)
「我らはあの人々のために王国と享楽と幸福を望んだが、
その彼らが、生命と財産を投げうって、この戦いに臨んでいるのだ。」
―『バガヴァッド・ギーター』第1章 第33節
■逐語訳(一文ずつ)
- 「私たちは、かつてあの人々とともに
- 王国や享楽、幸福を分かち合おうと願っていた。
- だが今、その彼らが――
- 自らの命と財産を捨てて、私と戦うために戦場に来ているのだ。」
■用語解説
- 王国(ラージャ):統治する国土。支配権の象徴。
- 享楽(ブゴーガー):物質的・感覚的な楽しみ。
- 幸福(スカ):心の満足、快適な生活や関係性。
- 彼ら(イメー):父祖、兄弟、友人など本来「共に生きるはずの者たち」。
- 生命と財産を投げうって:自らのすべてを賭けて戦争に参加しているという重大な決意。
■全体の現代語訳(まとめ)
アルジュナは、目の前の戦場に立っている人々――それはかつて「共に国を治め、幸福を分かち合うべき存在」であったことに気づく。そして今、その彼らが命とすべてを投げうち、自分を倒すために立ちはだかっている。その事実に、アルジュナの心は深く揺さぶられる。
■解釈と現代的意義
この節では、「共に喜びを得るはずだった者と、争わなければならない悲劇」が浮き彫りにされます。
アルジュナにとって、戦う相手は単なる敵ではなく、人生を共にするはずだった血縁や師、親しい者たちです。目的が同じだったはずの人々と立場を違えて対立せねばならない――この状況が、彼に「戦う意味」を見失わせているのです。
現代でも、ビジネスや人間関係において、かつて同じ志を持っていた仲間と対立せざるを得ない場面があります。
そのとき、「勝つこと」よりも「何のために共に歩んできたのか」を振り返る視点が求められます。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
パートナーシップの再認識 | 元は同じ目的を目指した者同士が競合や対立関係になるとき、その関係性と過去の絆を再確認することが重要。 |
チーム分裂のリスク管理 | 理念や目的が共有されていなければ、組織内でも容易に分裂や対立が生じる。 |
内なる敵意の昇華 | 自分にとって大切な相手との摩擦ほど、学びと成長のチャンス。冷静に目的と本質を見つめ直す契機とせよ。 |
感情と理性の橋渡し | 感情的に対立しそうなときほど、「かつて何を共に望んだか」という原点を思い出すことが、破壊ではなく再建の糸口になる。 |
■心得まとめ
「共に夢見た者と争うとき、勝ち負けよりも本質を問え」
アルジュナは、共に王国を築こうと願った者たちと剣を交える運命に疑問を抱く。戦いの果てに何が残るのか。勝利では癒されない心の痛みこそが、本当の問題である。私たちもまた、対立の中にあっても「共に願った未来」を忘れず、そこに立ち返る勇気を持つべきである。
次の第34節以降では、アルジュナがその「共に願った人々」の具体的な名を挙げ、ますます心の葛藤を深めていきます。
コメント