目次
■引用原文(日本語訳)
「ガンディーヴァ弓は手から落ち、皮膚は焼かれるようだ。
私は立っていることができない。私の心はさまようかのようだ。」
―『バガヴァッド・ギーター』第1章 第30節
■逐語訳(一文ずつ)
- 「ガンディーヴァ(私の聖なる弓)は、手から滑り落ちていく。
- 皮膚は焼けるように熱く、感覚を失いつつある。
- 私はもう立っていられない。
- 心は定まらず、さまよっているかのようだ。」
■用語解説
- ガンディーヴァ弓:アルジュナが神々から授かった最強の弓。戦士としての誇りと力の象徴でもある。
- 手から落ちる:心の動揺により、力が入らなくなって弓を握っていられない状態。職務・使命からの離脱の象徴。
- 皮膚が焼かれるようだ:強いストレス・内的葛藤が、神経レベルで身体に表れている。
- 心がさまよう:集中できず、目的意識も失われ、思考が散乱している様子。深い苦悩の中にある精神状態。
■全体の現代語訳(まとめ)
アルジュナは、戦士として最も大切な「弓」を手から落としてしまう。皮膚は焼けるように痛み、立っていることすらできず、心は定まらずさまよう。これは「外の敵」ではなく、「内なる動揺」によって、自分の役割と意志を失いかけている姿である。
■解釈と現代的意義
この節は、アルジュナがついに「戦士」としての自分を見失いかけている描写です。弓を持てないとは、自分の役割を果たすことができないという“喪失感”の象徴。強い者ほど、自らの中にある「矛盾」「葛藤」「情」によって崩れるのです。
現代においても、プロフェッショナルな人ほど、「自分の使命に疑問を感じたとき」に大きく揺らぎます。そしてその揺らぎは、成長の前触れでもあります。揺らぐ者だけが、やがて本物の強さにたどり着けるのです。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
役割からの乖離 | 長年の仕事やポジションに自信を持っていた人が、急に「これでいいのか」と感じるとき、道具(=弓)を手放す感覚に陥る。 |
バーンアウトの兆候 | 身体的異常(疲弊・痛み)、精神的迷走(判断不能)などは、バーンアウトの初期症状である可能性が高い。 |
心の声を聞く | 仕事ができなくなる理由は、能力ではなく「納得感の欠如」であることが多い。 |
心の再起動 | 弓を握れなくなったとき、再び何のために働くのか――「目的の再定義」が必要になる。 |
■心得まとめ
「真に強い者とは、弓を手放したときに自分と向き合える者である」
アルジュナは、弓を握れなくなったことで、自分の信念と義務が揺らいでいることに気づく。それは決して弱さではない。人生や仕事の中で「自分の使命」が見えなくなる瞬間――そこに立ち止まり、自らの心と向き合う者だけが、より深く、より強くなっていく。
次の第31節では、アルジュナが「何のために戦うのか分からなくなった」ことをクリシュナに告げ始めます。
コメント