目次
■引用原文(日本語訳)
「また、愚者がその堅固さにより、睡眠、恐怖、悲しみ、嘆き、酔い(驕恣)を捨てない時、それは暗質的な堅固さである。」
(バガヴァッド・ギーター 第18章 第35節)
■逐語訳
愚かな者が、
- 眠気(惰性)、
- 恐れ、
- 悲しみ、
- 嘆き、
- 酔い(=慢心・頑迷)
といった内面的な束縛を、
固く執着して手放そうとしないとき、
その「堅固さ(ドリティ)」は、実は暗質(タマス)に支配された意志である。
■用語解説
- 堅固さ(ドリティ):意志の力・継続力。
- 暗質(タマス):無知・怠惰・否定性・頑迷・混沌を特徴とする性質。
- 睡眠(ニドラ):怠惰、回避、自己の麻痺。
- 恐怖(バヤ):挑戦や変化を避ける防衛的反応。
- 悲しみ・嘆き(ショーカ・ヴィシャーダ):過去への執着、否定的感情の持続。
- 酔い(マダ):慢心、自己陶酔、傲慢、不機嫌な頑固さ。
■全体の現代語訳(まとめ)
意志があるように見えても、
それが「変わりたくない」「現実を直視したくない」「感情に浸っていたい」
という無知や弱さの自己肯定から来ている場合、
それは真の堅固さではなく、タマス的な頑迷さである。
「離れるべきものにしがみつくこと」は、意志力ではなく執着と恐れの表れである。
■解釈と現代的意義
この節は、「意志の質にも優劣がある」ことを鋭く指摘します。
何かをやり続けているからといって、それが賢明な意志とは限らず、
実は変化や挑戦を避けるための逃避の頑固さであることがある。
私たちはしばしば、感情・怠惰・自己正当化に基づく「しがみつき」を「自分らしさ」や「信念」と誤解してしまいます。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 実務での例 |
---|---|
変化への抵抗 | 「昔からこうしてきた」「慣れてるから変えたくない」という思考停止的な姿勢。 |
感情への固執 | 過去の失敗や恨みに囚われ続け、前進を阻む態度。 |
ネガティブ思考の自己正当化 | 「自分には無理」「不安だからやらない」といった否定的態度を、慎重さや冷静さと混同する。 |
慢心・自己陶酔 | 自分の立場や過去の成功に固執して、学習や修正を拒む姿勢。 |
■心得まとめ
「しがみつくことと貫くことは違う」
真の意志は、自らを高め、開かれ、変化を受け入れる力である。
「眠り・恐れ・悲しみ・慢心」にしがみつき、それを手放せないことは、
意志の強さではなく、内なる無知(タマス)に縛られた弱さに他ならない。
ギーターは言う――本当に強い者は、手放すことを恐れない。
コメント