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■引用原文(日本語訳)
「貪欲、活動、諸行為の企て、躁状態、切望。これらは激質が増大した時に生ずる。」
(第14章 第12節)
■逐語訳
貪欲(むさぼり)、せわしない活動、多くの企て、落ち着きのない興奮状態、そしてさまざまな欲望――これらは、激質(ラジャス)が優勢になったときに現れる特徴である。
■用語解説
- 貪欲(lobha):持っていてもなお求める、満足を知らぬ欲望。
- 活動(pravṛtti):止まらない行動、常に動いていないと不安になる性質。
- 諸行為の企て(karmaṇām ārambhaḥ):結果を狙った多数の計画や行動の着手。
- 躁状態(aśamaḥ):興奮・せっかち・焦燥感。精神的な落ち着きの欠如。
- 切望(spṛhā):強く欲し、執着し、手に入らないことに苦しむ心。
■全体の現代語訳(まとめ)
激質(ラジャス)が増大すると、人は欲望に駆られ、じっとしていられず、数多くの行動に手を出し、落ち着きを失い、強く何かを求めるようになる。これは外的には“エネルギッシュ”に見えるが、内面では“満たされない不安”に動かされている状態である。
■解釈と現代的意義
この節は、「行動量が多い=優れている」とは限らないことを示しています。むしろ、激質が高まると、私たちは本質的ではない行動を繰り返し、疲弊し、満たされない思いに縛られるようになります。今の社会やビジネス環境において、「多忙」「刺激」「スピード」が礼賛されがちですが、そこに潜む激質的な束縛への注意が必要です。
■ビジネスにおける解釈と適用
観点 | 適用例 |
---|---|
多忙信仰の危険 | 「動いていないと不安」「予定が詰まっていないと価値がない」と感じるのは、激質に支配されている証。 |
企画倒れ症候群 | 常に新しいアイデアやプロジェクトを立ち上げては完遂しないのは、ラジャス的衝動の表れ。 |
焦りと短期志向 | 成果・報酬・承認を強く求めすぎると、手段や倫理が軽視され、持続的成功から遠ざかる。 |
自己管理の視点 | エネルギッシュな時ほど立ち止まり、「これは本当に必要な行動か?」と問い直す内省が不可欠。 |
■心得まとめ
「動きすぎは、心が乱れている証である」
激質が優勢になると、行動は加速するが、心は空虚になる。多動・多欲・多企画は、充実ではなく“渇き”の表れである。ビジネスにおいても、忙しさの中にこそ一呼吸の静けさを持ち、真に意味ある行動を選び取る力が、成熟したプロフェッショナルの証となる。
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