目次
『老子』第四十章「去用」
1. 原文
反者道之動、
弱者道之用。
天下萬物生於有、
有生於無。
2. 書き下し文
反る者は道の動なり、
弱き者は道の用なり。
天下の万物は有より生じ、
有は無より生ず。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 「反(かえ)ることこそ、道の運動である」
→ 一見進むようで戻る、変化は螺旋状に循環している。 - 「弱いものこそ、道の真の働きである」
→ 柔らかさ・受け入れる力が、本質的な有用さを持つ。 - 「この世の万物は“有”(かたちあるもの)から生じる」
→ 見えるもの・名のあるものが存在の母体となる。 - 「“有”は“無”(かたちのないもの)から生じる」
→ 無形・空虚・無名の中に、すべての可能性の源泉がある。
4. 用語解説
用語 | 解説 |
---|---|
反(はん)/反る | 戻る・引き返す・裏返る。循環や逆説的な運動。 |
動(どう) | 道の基本的な働き・変化。静と動が合一して存在する。 |
弱(じゃく) | 柔らかく、力を持たず、受容的なもの。水や赤子に例えられる。 |
用(よう) | 機能・はたらき・活力の源。 |
有(ゆう) | 形あるもの、名づけられる世界。現象世界。 |
無(む) | 空・形のないもの、根源の力、潜在的な可能性。 |
5. 全体の現代語訳(まとめ)
「変化・運動というものは、“戻る”という作用の中にこそ本質がある。
一見弱く見えるものが、実は最も役に立つ道の働きである。
この世のあらゆるものは、形ある“有”から生まれているが、
その“有”すらも、“無”という形なき根源から生まれている。」
6. 解釈と現代的意義
◆ 逆説が真理を生む
老子が繰り返し強調するのは、「前に進むには一度引く」「強くなるには柔らかくなる」といった“逆の動き”に真理があるということです。
◆ 無から有を生む力=道の本質
「何もない」こと(空間、余白、静けさなど)は、可能性と創造の源。
実体ではなく、“関係性”や“余白”に価値を見出す思想は、老子哲学の特徴です。
◆ 柔らかく、弱く、逆らわないものが強い
水のように低きに流れ、形を持たず、しかし岩をも穿つ。
老子はこの「柔弱」の力こそが「道のはたらき」だと考えます。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
「撤退や転換は“退歩”ではなく“動”である」
- 新規事業からの撤退や方向転換は、「失敗」ではなく「次なる創造の準備」。
- 成功を生む流れは、直線的ではなく“反る”動きの中にある。
「“柔らかさ”こそ最大の力」
- 部下の声を聞く、顧客の苦情に耳を傾ける、競合と争わない──これらはすべて“弱さ”に見えて、長期的な力になる。
- 権威やパワーで押し切るリーダーよりも、“しなやかに調整する”リーダーが信頼される。
「“何もない”空間から創造は生まれる」
- 空白のスケジュール、白い紙、余白ある設計──そこからこそ新たな価値が立ち上がる。
- 詰め込みすぎない余白設計は、持続可能なチーム運営やサービスにも応用できる。
8. ビジネス用の心得タイトル
この章は、老子思想の中でも特に濃縮されたエッセンスを含む重要章です。
“少なさ”“無”や“引き返す動き”の中に潜む、創造のエネルギーを忘れないように──という警句として活用できます。
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