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人を責めるより、自らを正すことがすべての始まり

孟子は、言葉や実践における“本当に良いもの”の特徴を述べながら、
最終的に、「自分のことを顧みず、人のことばかり気にする姿勢」を厳しく戒めている。

まず孟子は言う:

  • 「言近くして指遠き者は、善言なり」
     → 言葉は平易で身近なものであっても、そこに深い道理を内包しているものこそが良い言葉である
  • 「守ること約にして施すこと博き者は、善道なり」
     → 実践は簡潔だが、効果や影響が広く及ぶものが良き道である

そして君子(人格者)の振る舞いについてはこう述べる:

  • 「君子の言や、帯を下らずして道存す」
     → 君子の言葉は、身近でありながら、真理や原理がそこに宿っている
  • 「君子の守りは、其の身を修めて天下平らかなり」
     → 真に徳を備えた者は、まず己を正し、それによって広く天下にまで良き影響を及ぼす

そして、孟子が最後に批判しているのは以下のような姿勢:

  • 「人は自分の田(=自分の責務)をおろそかにし、人の田の草取りばかりをしたがる」
  • 「人に求めることは重く、自分に課すことは軽い」

これは、他人にばかり要求を押し付け、自分の行いを省みない人間の愚かさを象徴している。
孟子が重んじたのは、言行の誠実さ、そして“身修まりて後に家斉い、国治まり、天下平らかなり”という自己修養の哲学である。


引用(ふりがな付き)

「孟子(もうし)曰(いわ)く、言(げん)近(ちか)くして指(し)遠(とお)き者は、善言(ぜんげん)なり。
守(まも)ること約(やく)にして施(ほどこ)すこと博(ひろ)き者は、善道(ぜんどう)なり。
君子(くんし)の言(げん)や、帯(おび)を下(くだ)らずして道(みち)存(そん)す。
君子の守りは、其(そ)の身(み)を修(おさ)めて天下(てんか)平(たい)らかなり。
人(ひと)、其の田(た)を舎(す)てて人の田を芸(う)るを病(うれ)う。
人に求(もと)むる所(ところ)の者(もの)重(おも)くして、自(みずか)ら任(にん)ずる所以(ゆえん)の者軽(かる)ければなり」


注釈

  • 言近くして指遠し…言葉は身近で平易だが、その意味・指すところは深遠。
  • 守ること約にして施すこと博し…日々の実践は簡潔だが、その影響は広く深い。
  • 帯を下らず…胸元までの距離、転じて「すぐ近くにある」ことの比喩。
  • 芸る(うる)…耕す。田を手入れすること。
  • 病う(うれう)…問題視する。嘆くこと。

パーマリンク(英語スラッグ)

tend-your-own-field

「自分の田を耕せ、他人の田にばかり手を出すな」という孟子の比喩を踏まえたスラッグです。他の案:

  • fix-yourself-first
  • simple-words-deep-truth
  • self-cultivation-spreads-peace

この章は、他人批判の前にまず己を磨くという自己修養の鉄則を再確認させるものです。

目次

1. 原文

孟子曰、言近而指遠者、善言也。
守約而施博者、善道也。
君子之言也、不下帶而道存焉。
君子之守也、修其身而天下平。
人、病舍其田而芸人之田、求於人者重、而任自者輕。


2. 書き下し文

孟子(もうし)曰(いわ)く、言(げん)近(ちか)くして指(ゆび)すところ遠(とお)き者は、善(よ)き言(げん)なり。
守(まも)ること約(やく)にして施(ほどこ)すこと博(ひろ)き者は、善(よ)き道(みち)なり。
君子(くんし)の言(こと)や、帯(たい)を下(くだ)らずして道(みち)存(そん)す。
君子の守(まも)りは、其(そ)の身(み)を修(おさ)めて天下(てんか)平(たい)らかなり。
人(ひと)、其の田(た)を舎(す)てて人の田を芸(う)うを病(うれ)う。
人に求(もと)むる所の者(もの)重(おも)くして、自(みずか)ら任(にん)ずる所の者(もの)軽(かる)ければなり。


3. 現代語訳(逐語訳/一文ずつ訳)

  • 言近くして指遠き者は善言なり
     → 話の内容が身近なことでありながら、その本質が遠く深いところを指しているもの、それが優れた言葉である。
  • 守ること約にして施すこと博き者は善道なり
     → 自ら守る規範は簡潔でありながら、施しや影響は広い──これが優れた生き方である。
  • 君子の言や、帯を下らずして道存す
     → 君子の言葉は軽々しく語られることなく、深く慎ましく、その中に道が宿っている。
  • 君子の守りは、其の身を修めて天下平らかなり
     → 君子の行いとは、自らの身を律することであり、それによって社会は平和になる。
  • 人、其の田を舎てて人の田を芸うを病う
     → 自分の田畑を捨てて、他人の田を耕すような生き方を憂うべきだ。
  • 人に求むる所の者重くして、自ら任ずる所の者軽ければなり
     → なぜなら、人に頼ることが多く、自分の責任を軽く見ているからである。

4. 用語解説

  • 言近而指遠(げんちかくしてしとおし):表面は身近なことを語っているようでも、その意味は深く遠い。優れた比喩・警句の特質。
  • 守約而施博(しゅやくしてしはく):自らには厳しく簡素な規律を守り、他者には広く恩恵を施す態度。
  • 帯を下らず:帯を解くように軽く言葉を発しない、つまり軽々しい言動を慎むこと。
  • 芸(う)う:耕すこと。
  • 病う(うれう):嘆かわしいと考えること。問題視する意。
  • 自ら任ずる所:自分で引き受けるべき責任。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孟子はこう言った:

本当に優れた言葉とは、話の内容が身近でありながら、実は深く遠い道理を指し示しているものである。
自分が守るべきルールは質素で簡潔でありながら、その生き方は広く人に影響を与える──これが善い生き方である。

君子の言葉は、軽はずみに口にされることなく、言葉の中にしっかりと道が宿る。
君子はまず自分の行いを正すことで、その徳が広がって社会の平和に繋がる。

人が自分の田畑を放棄して、他人の田畑を耕しているような姿は嘆かわしい。
なぜなら、人に期待することが重すぎて、自分で引き受けるべき責任が軽すぎるからだ。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「深い言葉の力」「自律の重要性」「責任感」**を強調しています。

  • 優れた言葉とは、聞きやすくて深い:単なる美辞麗句ではなく、「なるほど」と思える身近さと、後でじわじわ効いてくる深さを備えている。
  • 行動の核は“守ること”にある:自己規律の厳格さと、他者への寛容・広さというバランスが大切。
  • 社会を変えるには、まず自分から:他人の言動や環境を変えようとする前に、まずは自分の田(=責任・役割)を耕すべきだという強いメッセージ。

7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

「“わかりやすさ”と“深さ”の両立が信頼を生む」

  • 優れたリーダーの言葉は、身近で共感を呼びながらも、深い示唆を持つ
  • たとえば、日常的な言葉でビジョンを語るが、それが長期戦略に通じるような“言近指遠”が重要。

「自律こそが影響力の源泉」

  • 規律を自分に課し、他人には寛容であれ。これは信頼されるリーダーの共通点。
  • 上司が自ら倹約し、部下に還元するような姿勢こそが“守約施博”。

「人に期待しすぎるな、自ら耕せ」

  • 「チームがやってくれる」「他部署がなんとかしてくれる」といった他責思考は危うい。
  • “自分の田を耕す”=自分の職務・領域・問題をまず責任をもって動かすことが、最も効果的な改善策。

8. ビジネス用の心得タイトル

「語は近くして道を照らす──まず自分の“田”を耕せ」


この章句は、**「言葉と行動の本質、そして他責ではなく自責による実践」**を教えてくれる実に深い内容です。

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