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すべきことの優先順位を誤ってはならない

孟子は、「すぐに取り組むべき本務」を見極めることの重要さを説いた。

知者(ちしゃ/賢い者)は、本来すべてを知ろうとする心を持っている
仁者(じんしゃ/思いやりのある者)も、すべてを愛そうとする心を持っている

しかし、知者もまずは「急ぎなすべき事」を優先し、仁者もまず「賢者を愛し親しむこと」を第一とする。
だからこそ、堯・舜のような聖人ですら、すべての物事に精通したわけではなく、すべての人を等しく愛したわけでもない

それは「先にやるべきことを急務とした」からである。

孟子はさらに皮肉を込めてこう言う:

三年の喪という人として最も重要な礼ができない者が、
たった三ヶ月・五ヶ月の喪服(緦・小功)の細かな作法を論じてみたり、
大口を開けてがつがつ飯を食い、吸い物を音を立てて飲んでいるような者が、
他人が干し肉を歯で噛み切ったかどうかなどという、
つまらぬ礼儀のことでうるさく指摘する──

そういう者こそ、「何が本当に大事かをわきまえていない人間」なのである。

「孟子曰く、智者は知らざること無きなり。当に務むべきを之急と為す。仁者は愛せざること無きなり。賢を親しむを急にするを之務めと為す。… 是を之務めを知らずと謂う」

孟子のこの言葉は、現代においても示唆に富んでいる。
小さな形式や枝葉末節にばかりこだわり、真に優先すべき本務を忘れていないか?
常に、**「今すべきことは何か」**を見極める心を持つことが、賢者への第一歩である。

※注:

  • 「三年の喪」…親が亡くなった際、儒教において最も重要とされる服喪期間。
  • 「緦(し)・小功」…三か月・五か月の軽い喪。
  • 「放飯・流歠」…粗野な食事の仕方の例え。行動と主張がちぐはぐであることへの批判。
  • 「歯決」…干し肉を歯でかみ切ること。細かな礼儀作法の一例。
目次

『孟子』離婁章句下より

1. 原文

孟子曰、知者無不知也、當務之爲急、仁者無不愛也、親賢之爲務。
堯・舜之知而不徧物、以先務也、堯・舜之仁不徧愛人、以親賢也。
不能三年之喪、而緦・小功之察、放飯流歠、而問無齒決、是之謂不知務。


2. 書き下し文

孟子曰く、知者は知らざること無し。務むべきを以て急と為す。仁者は愛せざること無し。賢を親しむを以て務めと為す。
堯・舜の知にして物に遍からざるは、先務を以てなり。堯・舜の仁にして人を遍く愛せざるは、賢を親しむを以てなり。
三年の喪を能くせずして、緦・小功を察し、飯を放ち汁をすすり、歯決せざるを問う。是れ務を知らざると謂うなり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「知者というのは、知らないことがないように見えるが、本当に重要なことを優先して実行できることが“急務”なのだ。」
  • 「仁者というのは、誰にでも愛情を持つように思えるが、賢者と親しくすることをまずすべき“務め”とする。」
  • 「堯や舜のような聖人でさえ、全ての事物を知っていたわけではない。それは優先すべき務め(先務)を重視していたからである。」
  • 「堯や舜のような仁者でも、すべての人を平等に愛したわけではない。それは、まず賢者と親しむことを最優先にしていたからである。」
  • 「三年の喪(もっとも深い喪礼)すら行えず、細かな服喪制度(緦・小功)を細かく気にしたり、食事に夢中になって歯に挟まったことまで問う者は、優先順位を知らないというのである。」

4. 用語解説

  • 務(つと)め/先務:最優先で取り組むべき課題や行動。
  • 親賢(しんけん):賢者・有徳の人と交わること。学ぶ・支える対象として重視すること。
  • 三年の喪(さんねんのも):最も重い親の死に対する儒教的喪礼。
  • 緦(し)・小功(しょうこう):軽い親族関係に対する短期の喪服制度。
  • 放飯・流歠(はんをほうじ、しるをすすり):粗雑に食事すること。礼節を欠いた態度。
  • 歯決(しかい):食物が歯に挟まった際に噛み切れないことを問う=どうでもよい細事への執着。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

孟子はこう言った:

「真の知者とは、あらゆることを知る者ではなく、“本当に今やるべきこと”に集中できる者である。
真の仁者とは、誰にでも親切な者ではなく、“賢者と親しむ”ことを第一とする者である。
堯や舜のような聖人ですら、すべての事物に詳しかったわけではなく、まず優先すべきことを押さえていたからであり、
また全ての人を平等に愛したわけではなく、まず賢者と交わることを重んじていたからである。

なのに、最も大切な三年の喪を行えない者が、逆に軽い服喪制度の細かい部分を論じたり、
食事で汁をすすって歯に物が挟まったかを気にしているのは、まさに“務めを知らぬ”と言うべきである。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「本質を見極める力=先務を知る力」が知性や徳性の根幹であると説いています。

  • 知識よりも「何に集中すべきか」の判断が知性
     すべてを知っているふりをするよりも、今やるべき“急務”をつかみ取ることが真の知者の証。
  • 万人を愛することよりも、正しく交わる相手を選ぶ
     誠実で信頼できる仲間を見極める力こそが、仁の実践として重視されている。
  • 「細事にとらわれて本質を見失うな」
     儀礼や制度の枝葉末節にばかり目を向ける人は、全体の精神(誠意・礼)を見落としがち。

7. ビジネスにおける解釈と適用

✅ 「“何でもやる”人は成果を出せない──“いま何に集中すべきか”が知の真価」

  • タスクを片っ端からこなすことが“できる”のではない。
     真に優れたビジネスパーソンは、**「いま何をやらないか」「いま最も重いことは何か」**に注目する。

✅ 「人脈よりも“人選”──親しむべき人を見誤るな」

  • コネや人気よりも、“一緒にいて人間性が磨かれる相手”を選ぶことが、長期的に正義と利益をもたらす

✅ 「細かいルールより、根本の精神を問え」

  • 社内ルールの盲目的な遵守より、なぜそれがあるのか、本質的な意味に照らして判断する姿勢が重要。

8. ビジネス用の心得タイトル

「本質を見極め、枝葉に惑わされるな──“先務”を掴む者が成果を得る」


この章句は、知識偏重ではなく“判断力”と“優先順位感覚”こそがリーダーに求められる資質であるという孟子の重要な教育的メッセージです。

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