孟子は、人間が持つ身体や容貌、顔の表情といった「形色」は、天(自然)から与えられたものであり、それ自体が**天性(本性)**であると説く。
しかし、多くの人は私欲や俗念にとらわれ、その本来の力を発揮できていない。一方で、聖人と呼ばれる人物は、自らに与えられた身体・資質をそのまま正しく活かし、天性に忠実に生きている。つまり、聖人こそが、天から授かった資質を“十全に発揮し、実践できる人”なのだ。
「孟子曰く、形色は天性なり。惟(ただ)聖人にして、然る後に以て形を践むべし」
「身体や容貌は天が与えたものであり、それ自体が人間の本性である。ただ聖人のみが、それを正しく実践できる」
孟子は、私たちも本来は聖人と同じ資質を持っていると信じていた。違いは、天性をどれだけ素直に活かせるか、発揮できるかにある。そしてそれを妨げているのが、私欲や誤った習慣なのである。
原文
孟子曰、形色、天性也、惟聖人、然後可以踐形。
書き下し文
孟子曰く、形色(けいしょく)は、天性なり。惟(ただ)聖人にして、然(しか)る後に以て形を践(ふ)むべし。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 「形色は天性なり」
→ 肉体(形)や感情・外見(色)は、人が生まれながらに持っている本能・自然な性質である。 - 「ただ聖人のみが、それを践む(実践・制御)ことができる」
→ それら自然の性を自覚し、適切にコントロール・表現できるのは、聖人という高徳な人物だけである。
用語解説
- 形色(けいしょく):
「形」は肉体・欲望、「色」は表情・感情・視覚的なものを指し、人間が生得的に備えている「五感や情欲」の総称。 - 天性(てんせい):
天から与えられた本質=本能的性質。「生まれつき」の意。 - 聖人(せいじん):
孟子の思想における理想的人間像。徳を究め、仁義礼智を完全に体現する者。 - 践(ふ)む:
実践する、踏み行う、現実の行動として体現すること。ここでは「形色に流されず、制御し正しく生かす」という意味。
全体の現代語訳(まとめ)
孟子は言った:
「人が持っている身体や感情、視覚的欲求などの“形色”は、すべて天から与えられた生まれつきの性質である。
だが、それを正しく踏み行い、実践できるのは、ただ“聖人”だけである。」
解釈と現代的意義
この章句では、人間の本性(肉体的欲望・感情)そのものを否定せず、「それをいかにコントロールし、正しく発揮するか」が重要だという孟子の核心思想が表れています。
- 欲望そのものは悪ではない:
欲望や感情(形色)は人間として自然なものである。否定すべきは“欲”そのものではなく、それに流されること。 - 聖人とは「感情や欲望の扱い方」を知る人:
理性と徳によって、形色を導き、正しく生かす。これが人格的完成であり、君子の理想。 - 人間の尊厳は「本能に対する自己規律」にある:
動物と異なるのは、「感情を制御し、正義や礼によって表現する」力があること。
ビジネスにおける解釈と適用
「感情は“悪”ではない、扱い方が人を決める」
怒り・欲求・不安を抱くこと自体は自然。だが、それをどう表現するかが人間性・リーダーシップの真価を問う。
「リーダーは“情熱”と“節度”を両立させるべし」
部下を導く者は、感情豊かであると同時に、その感情を正しく方向づけられる節度を持つことが求められる。
「“自律”は最高の人材資質」
高度な仕事を任せられるのは、感情や衝動に流されず、原則と目的に従って行動できる人物。これが“聖人に近い”社員。
ビジネス用の心得タイトル
「欲は生まれながら、徳は磨いて得る──自己を律する者が信を得る」
この章句は、感情や欲望のコントロール=自己規律を最も重要な人間的能力とし、それを備えた者こそが「聖人」であるとする孟子の深い思想を伝えています。
現代においても、自律・感情マネジメント・内省型リーダーシップといった概念に通じる重要な教えです。
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