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言葉よりも評判、法令よりも徳で治める

孟子は、仁愛のある言葉を直接かけることは素晴らしいことだが、それ以上に民から「この人は仁愛のある人物だ」と評判が立つことの方が、民の心に深く浸透すると説いた。また、良い政治も大切だが、法度や禁令による統治よりも、仁義や道徳に基づく教えを広め、民の心を得ることがより良い治め方であると教えた。法度や禁令がしっかりと整備された政治は、民がそれを恐れて従うが、仁義や道徳に基づく教えは民がそれを愛し、心から従うことができる。善政は民からの財貨をよく集めるが、善教は民の心を得て、国をさらに安定させる。

「孟子曰(もうし)く、仁言は仁声の人に入るの深きに如かざるなり。善政は善教の民を得るに如かざるなり。善政は民之(これ)を畏れ、善教は民之を愛す。善政は民の財を得、善教は民の心を得」

「仁愛のある言葉をかけることは素晴らしいが、それよりも『この人は仁愛のある方だ』という評判が民の心に深く入る。良い政治は法令や禁令が整っていて民が恐れて従うものだが、それよりも仁義や道徳に基づく教えが広まり、民がそれを愛して心から従うことが、より良い治め方である」

言葉や法令だけでなく、徳や道徳によって民を導くことが、真の治世の鍵となる。

目次

原文

孟子曰、仁言不如仁聲之入人深也。善政不如善教之得民也。善政民畏之、善教民愛之。善政得民財、善教得民心。

書き下し文

孟子曰(いわ)く、仁言(じんげん)は、仁声(じんせい)の人(ひと)に入(い)ることの深(ふか)きに如(し)かざるなり。善政(ぜんせい)は、善教(ぜんきょう)の民(たみ)を得(う)るに如かざるなり。善政は民之(これ)を畏(おそ)れ、善教は民之を愛(あい)す。善政は民の財(たから)を得、善教は民の心(こころ)を得。

現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 「仁言不如仁聲之入人深也」
     → 優しい言葉よりも、優しい声の方が人の心に深く届く。
  • 「善政不如善教之得民也」
     → 立派な政治よりも、優れた教育の方が人々の心をつかむ。
  • 「善政民畏之、善教民愛之」
     → 良い政治でも人はそれを畏れ敬うが、良い教育には人は愛情を抱く。
  • 「善政得民財、善教得民心」
     → 良い政治は民から財を得るが、良い教育は民の心そのものを得る。

用語解説

  • 仁言(じんげん):道徳的で思いやりのある言葉。
  • 仁聲(じんせい):その人の誠意や徳がにじみ出た声・話し方。
  • 善政(ぜんせい):正しい政策、法と制度による良い統治。
  • 善教(ぜんきょう):徳による感化、教育を通じた心の育成。
  • 畏(おそ)れる:敬意を含みつつも、どこか距離を置く感情。
  • 愛(あい)す:心から親しみ、尊敬し、従いたくなる感情。
  • 民財(たみのたから):人々の富・物質的な資源。
  • 民心(たみのこころ):人々の信頼・敬愛・精神的な帰属意識。

全体の現代語訳(まとめ)

孟子はこう語った:
「どれほど優しい言葉を使ったとしても、実際にその人の声や話し方ににじむ“真心”にはかなわない。
また、どれほど立派な政治を行ったとしても、人々の心を動かす点では、教育の力に及ばない。
政治は人々を敬わせることはできても、教育は人々に愛される。
政治は人々から財産を集められるが、教育は人々の心そのものを得ることができる。」

解釈と現代的意義

この章句は、**「徳による教育の力は、制度的な統治よりも根本的で深い」**という孟子の政治観・人間観を明快に表現した名言です。

  • “言葉”より“にじみ出る声”が人の心を打つ
     表面的な話術よりも、人格や誠意のこもった声こそが、人の心を動かす。
  • “政治”より“教育”が信頼と共感を生む
     政治=制度の力に頼るのではなく、教育=心の育成によって民が自発的に善を目指す社会を理想とする。
  • 支配より“共感”が持続可能な関係をつくる
     恐れて従う民ではなく、愛して信じる民を得ることが、持続的で安定した統治や組織運営の鍵である。

ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

「言葉」より「誠意ある話し方」が信頼を生む

  • 指示・説明が正しくても、話し方や表情に誠実さがなければ部下の心には響かない。
  • 「何を言うか」ではなく「どう言うか」「どんな人が言うか」が重要。

「ルール」より「教育と育成」が組織を強くする

  • 就業規則や評価制度で統制しても、長期的には限界がある。
  • メンバーの意識・判断力・共通の価値観を育てる“教育型マネジメント”が本質的な成果を生む。

「成果」より「信頼」を得るマネジメントへ

  • 善政=制度によって得るのは財(短期的成果)だが、
  • 善教=教育によって得られるのは心(信頼・モチベーション・エンゲージメント)。

ビジネス用の心得タイトル

「制度では心は動かぬ──“信頼と共感”が組織を育てる力」

この章句は、現代の経営やマネジメント、教育・育成の本質を貫くものです。
制度や言葉だけでなく、「人間としての在り方」や「本物の誠意」によって、人の心を得ることの重要性を教えてくれます。

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