孟子は、ある程度の富や財産を持っていても、それに満足せず、さらに韓氏や魏氏のような大金持ちのような富を求めることには意味がないと説いた。真に優れた人物は、財産に満足することなく、むしろ自分が道に欠けている点がないかどうかを常に振り返り、心を向ける。金銭や物質的な富よりも、自己の道徳や精神の成長を重視する姿勢こそが、真の人間らしさを示している。
「孟子曰(もうし)く、之に附するに韓・魏の家を以てするも、如し其の自ら視ること欿然たらば、則ち人に過ぐること遠し」
「もし韓氏や魏氏のような大富豪の財を持っていたとしても、満足することなく、自分が道に欠けるところがないかを振り返るなら、その人物は真に人並み以上である」
お金を得ることも大事だが、それよりも自分が正しく生きるための道を追求することが重要である。
※注:
「韓・魏の家」…当時の富豪、特に大資産家であった韓氏・魏氏を指す。
「欿然」…自己の道に欠けている部分がないかを常に心がけ、満足しない様子。
『孟子』 公孫丑章句(上)より
1. 原文
孟子曰、附之以韓魏之家。如其自視欿然、則過人遠矣。
2. 書き下し文
孟子曰(いわ)く、之(これ)に附(ふ)するに韓・魏の家を以(もっ)てす。もし其(そ)の自(みずか)ら視(み)ること欿然(かんぜん)たらば、則(すなわ)ち人(ひと)に過(す)ぐること遠(とお)し。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 「附之以韓・魏之家」
→ (たとえば)韓や魏といった名門の家柄のような後ろ盾を加えたとしても、 - 「如其自視欿然、則過人遠矣」
→ 自らを省みて足りないと感じる謙虚さがあるならば、他の人を大きく超える存在になる。
4. 用語解説
- 附(ふ)する:付け加える、加勢する、援助を受ける。
- 韓・魏の家:戦国時代の有力諸侯。格式や政治的権力の象徴。
- 自視(じし):自分自身を省みて見ること。自己認識。
- 欿然(かんぜん):心が満ち足りず、何か足りないと感じているさま。謙虚であり自己に厳しい態度。
- 過人(かじん):人を超える、優れていること。
- 遠矣(とおし):非常に差がある、大きく上回っているという強調表現。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
孟子はこう語った:
「たとえ、韓や魏のような有力な名門の支援を受けたとしても、自らを省みて“まだ足りない”と感じる謙虚な姿勢があれば、その人物は他人を大きく超える存在となる。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「真の優秀さは“外の支援”ではなく、内なる謙虚さによって完成される」**という教えです。
- 地位や後ろ盾は成功の条件ではない
名門の支援・名声・人脈といった外的要因があっても、それ自体は人を優れた人物にはしない。 - “欿然”の精神=自省と謙虚さが成長の鍵
自分を「まだ不十分」と捉える姿勢こそが、真の向上心・研鑽心であり、これが人を際立たせる。 - 本質的なリーダーシップの源泉は内にある
肩書や組織の看板よりも、「自分を磨き続ける姿勢」が、信頼・影響力・人格を育てる。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
「名刺の肩書より、“謙虚な自問”が人をつくる」
- ハイブランド企業・名門大学出身・有名な経歴──それらがあっても、自省と謙虚さがなければ成長は止まる。
- むしろ、自らを省みて「まだまだ」と感じ続ける姿勢が、リーダーやプロフェッショナルとしての深みをつくる。
「環境が整っていても、自己満足すれば成長が止まる」
- 外的な成功(資金、人脈、地位)を得た後も、なお“欿然”たる心を保てる人は、他者の信頼を集め続ける。
「自省する組織・個人は伸びる」
- 定期的にフィードバックを受け入れ、自分の弱さを認めて改善し続ける文化が、組織全体の質を押し上げる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「“まだ足りぬ”と省みる者が、人を超える」──謙虚さがつくる本質的なリーダーシップ
この章句は、孟子が説く“人格の高さ”とは、「どれほど外的に恵まれていても、なお自らを磨こうとする姿勢」にあるという強いメッセージです。
ビジネスにおいても、地位・名声・実績に満足せず、学びと内省を続ける人物こそが、他を圧倒する本当の実力者となります。
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