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賢者政治登用の意味

賢者を登用しなければ国は滅びる

淳于髠(じゅんうこん)は言った。
「かつて魯の繆公(びょうこう)の時、政治を取り仕切った公儀子(こうぎし)や、子柳(しりゅう)、子思(しし)のような賢者が臣となっていましたが、結局、魯の領土はどんどん削られ、国は衰退していきました。賢者が国を救わなかったというのは、このようなことなのでしょうか?」

孟子は答えた。
「かつて虞の国は、百里奚(ひゃくりけい)を登用しなかったために滅びました。これに対して、秦の穆公(ぼくこう)は百里奚を登用し、覇者となった。このように、賢者を適切に登用しなければ、国は滅びてしまうのです。領土を削られる程度では済まないということです。」

孟子は、賢者の登用の重要性を強調し、国を守り、発展させるためには有能な人材を登用することが不可欠であると教えています。


原文と読み下し

曰、魯繆公之時、公儀子、為政、子柳・子思為臣、魯之削らるや、滋〻甚し、若是乎、賢者の無益於國也。
曰く、虞は百里奚を用いずして亡び、秦の穆公は之を用いて覇たり。賢を用いざれば則ち亡ぶ。削らるること何ぞ得べけんや。


※注:

  • 魯の繆公(ろのびょうこう):魯の国の君主で、公儀子や子柳、子思といった賢者を登用していた時期の指導者。
  • 公儀子(こうぎし):学者であり、魯の政治に影響を与えた人物。名は休。
  • 子柳(しりゅう):賢者の一人で、魯の政治に仕えた人物。
  • 子思(しし):賢者で、儒学の重要な学者の一人として知られる。
  • 百里奚(ひゃくりけい):賢者であり、秦の穆公に仕え、秦の繁栄に貢献した人物。
  • 秦の穆公(しんのぼくこう):秦の国を強化し、覇者にした賢君。

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この章では、賢者の登用がいかに国家の命運を左右するかが強調されています。

目次

『孟子』公孫丑章句下より

1. 原文

曰、魯繆公之時、公儀子爲政、子柳・子思爲臣、魯之削也滋甚。若是乎、賢者之無益於國也。曰、不用百里奚而虞亡、秦繆公用之而覇。不用賢則亡、削何可得與。


2. 書き下し文

曰く、
「魯(ろ)の繆公(ぼくこう)の時、公儀子(こうぎし)政を為(おこな)い、子柳(しりゅう)・子思(しし)臣たり。魯の削(そ)がるや、滋(ますます)甚(はなは)だし。

是の若(ごと)きか、賢者の国に益(えき)無きことは。」

曰く、
「虞(ぐ)は百里奚(ひゃくりけい)を用いずして亡(ほろ)び、秦の繆公(ぼくこう)は之(これ)を用いて覇(は)たり。

賢を用いざれば則(すなわ)ち亡ぶ。削(そ)ぐこと何ぞ得て与(とも)にすべけんや。」


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • ある人が言った:「魯の繆公の時代、公儀子が政を司り、子柳・子思といった賢者たちが仕えていた。それにもかかわらず、魯はますます国力が衰えていった。これほどに、賢者が国に役立たないことがあるものか?」
  • 孟子が答えた:「虞の国は百里奚を用いなかったために滅びたが、秦の繆公は彼を用いて覇者となった。」
  • 「賢者を用いなければ国は必ず滅びる。国が衰えるのは、賢者が無益なのではなく、“用いないから”である。」

4. 用語解説

  • 魯繆公(ろぼくこう):魯国の君主(在位:戦国初期)。形式的には賢者に囲まれていたが政治は低迷した。
  • 公儀子(こうぎし):魯の賢臣。清廉な官吏として知られる。
  • 子柳・子思(しりゅう・しし):ともに学識ある人物。特に子思は孔子の孫で、儒学を継承した。
  • 百里奚(ひゃくりけい):春秋時代の賢人。かつて奴隷とされながらも、秦に仕えて宰相となり、国を大きく発展させた。
  • 繆公(ぼくこう):秦の名君。百里奚・蹇叔・由余などを重用し、強国化を果たした。
  • 削る(そぐ):領土や国力が縮小すること。
  • 覇(は)たる:覇者となる、諸侯に君臨する地位を得る。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

ある人が孟子に、「賢者が政に関わっていても、魯は衰退した。これでは賢者が役に立っていないことになるのではないか」と問うた。

孟子は、「違う。賢者が“いる”だけでは意味がなく、“用いるかどうか”が問題なのだ」と答える。
百里奚を用いなかった虞は滅び、用いた秦は覇者となったように、賢者を起用しなければ国は滅びる。衰退は賢者が無能なのではなく、起用しない君主に責任があるというのである。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「有能な人材を“活かす”かどうかが、組織の命運を分ける」という、非常に普遍的かつ現代的な教訓を含んでいます。

賢者がそばにいるだけで国が良くなるわけではない。登用し、信任し、その意見を活かす意思のあるトップ(指導者)こそが問われているのです。

孟子は、賢者の存在そのものではなく、それを“用いるか否か”という「リーダーの見識と覚悟」を批判しています。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

❖ 「優秀な人材がいても、“活用しなければ無意味”」

有能な人を採用しても、役職や裁量を与えなければ、その力は発揮されない。
形式的に「部門に置く」「相談役にする」ではなく、実権・責任・自由度を与えて初めて価値が生まれる

❖ 「リーダーの人材観が組織の命運を決める」

“聞く耳を持たない上司”“形式だけの任命”が続けば、組織はやがて衰退する。
「賢者を用いないこと」こそ、最大のリスクであると孟子は警告する。

❖ 「“登用の意志”こそがリーダーシップ」

改革・改善を実現するには、誰を任命し、どこまで任せるかが決定的。
有能な人が去っていく職場は、「使われなかった賢者がいる魯国」と同じ末路をたどる。


8. ビジネス用心得タイトル:

「人材を“用いよ”──活かさぬ賢者は、組織の墓標となる」


この章句は、経営・マネジメント・組織運営において、「人を活かす」という最重要原則を端的に表したものであり、人材登用戦略の本質を鋭く突いています。

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