孟子は、道にかなった交わりや礼儀を尽くした贈与であっても、その物が明らかに不正に得られたものであれば受け取ってはならないと断言する。
礼節があっても、「義(正しさ)」が失われている場合は交際そのものが成立しない。
原文と読み下し(ふりがな付き)
萬章(ばんしょう)曰く、今、人を國門(こくもん)の外に禦(ぎょ)する者ありとせん。
その交(まじ)わるや道(みち)を以(も)ってし、その餽(おく)るや礼(れい)を以ってせば、これを受(う)くべきか。
孟子曰く、不可(ふか)なり。康誥(こうこう)に曰(いわ)く――
「人を貨(たから)に殺(ころ)し越(こ)し、閔(びん)として死を畏(おそ)れざる。凡(すべ)ての民(たみ)、譈(にく)まざることなし」 と。
これ教(おし)うるを待たずして誅(ちゅう)する者なり。
殷(いん)は夏(か)を受け、周(しゅう)は殷を受け、辞せざる所なり。今において烈(れつ)と為(な)す。これをいかんぞ受けんや。
注釈と背景理解
- 「禦」=追いはぎ、武力で他人の財を奪うこと。
- 「交わりは道、贈り物は礼」=表面的には正しいが、贈与された物の出所が悪ければ「義」に反する。
- 「康誥」=『書経』の一篇。周の武王が、殷の紂王の残党に教戒を与える言葉。
- 「教うるを待たずして誅す」=教育以前に、すでに法に照らして罰すべき者。
- 「烈と為す」=時代を越えて変わらぬ道理・原則であること。周→殷→夏と継承されている法。
要点まとめ
- 贈り物の体裁が整っていても、中身が盗品や犯罪の成果であれば決して受け取ってはならない。
- 「義」を欠いた贈与は「礼」をもってしても帳消しにはできない。
- 礼儀正しく包装された不義は、最も悪質である。
- この原理は時代を越えて通用する「烈」、つまり普遍の倫理原則である。
事例比較:前章との違い
状況 | 判断基準 | 結論 |
---|---|---|
礼に則って目上が贈るが、義の出所が不明 | 礼を優先 | 受け取るべし(孔子の例) |
礼に則って贈るが、出所が明らかに不義 | 義を優先 | 受け取るべからず(本章) |
→ **「疑わしきは礼を優先」「明らかに悪しきは義を優先」**という棲み分けが見える。
現代への応用視点
この孟子の教えは、現代の贈収賄防止、ステークホルダーとの贈答管理、倫理的消費にも応用可能。
例:
- 出所不明の資金や物品は受け取らない
- 犯罪や環境破壊などによって得られた金での寄付や支援も受け取らない
- 組織の名誉のために、目先の利益より倫理性を守る
パーマリンク(英語スラッグ)
reject-unjust-gifts
→「不義の贈り物を拒め」
その他の候補:
no-honor-in-stolen-goods
(盗品に正義なし)justice-over-etiquette
(礼よりも義)ethics-in-giving-and-receiving
(贈与の倫理)
この章は、交際における「表面的な体裁」と「中身の正当性」を切り分けて評価することの重要さを教えています。
孟子の一貫した姿勢は、「見えを整えるな、中身を問え」という道徳律で貫かれています。
コメント