孟子は、真の友誼(ゆうぎ)は人の「徳」によって築かれるものであり、身分や背景を持ち込むべきではないと説く。
「長(ちょう)を挟まず、貴(き)を挟まず、兄弟(けいてい)を挟まず」とは、
年齢・地位・家族関係などを交友の“足場”にしてはならないという意味である。
とくに孟献子の事例を通して孟子が言いたかったのは、「家の力」を誇って友情を構築しようとすることへの強い否定であり、
それは同時に対等な人格的交わりこそが理想であるという儒家的友愛観の実践例でもある。
原文と読み下し
万章問うて曰く、敢えて友を問わん。
孟子曰く、
- 長(ちょう)を挟(さしはさ)まず、
- 貴(き)を挟まず、
- 兄弟(けいてい)を挟まずして友たる。
友たる者は、その徳をもって友とするなり。
以って挟むことあるべからざるなり。
補足:孟献子の交友例
- 孟献子は兵車百乗を持つ大夫の家柄であり、格式の高い身分。
- しかし彼は自らの出自を持ち出さずに、五人の友人たちと交わった。
- 楽正裘、牧仲、その他三名(名は失念)とは、「地位ではなく徳によってつながっていた」。
- もし友人たちが孟献子の家柄を意識していたら、孟献子は彼らを友とはしなかったであろう。
注釈と用語
- 挟まず:「持ち出さない」「かさにきない」。交際において優越性を利用しないこと。
- 徳:ここでは人格、道徳性、誠実さといった意味。
- 百乗の家:軍車百台を持つ諸侯級の名家。名門貴族の象徴。
- 五人の友:孟献子が地位に関係なく交流した人物群。
友とは何をもって「友」とするか
基準 | 孟子の評価 | 理由 |
---|---|---|
年齢 | ✗ | 長幼の序は礼では大切だが、友情の条件ではない |
身分(地位) | ✗ | 優越性をかさに交われば「媚び」や「見下し」が生まれる |
家柄 | ✗ | 出自で上下が生まれる交わりは友ではない |
徳(人格) | ◎ | 対等な関係を成立させる根本的基盤である |
現代における含意
- SNS時代やビジネスにおいても、肩書きやフォロワー数ではなく「その人の徳」でつながる重要性を説くメッセージとして響く。
- 学歴・職業・年齢・家柄などを盾にして築く人間関係は、本質的な信頼には至らない。
パーマリンク(英語スラッグ)
virtue-based-friendship
→「徳に基づいた友情」
その他の案:
friendship-without-privilege
(特権を挟まない交友)equality-in-friendship
(友情における平等)merit-over-lineage
(家柄よりも人格)
この章は、儒教の中でも**「義」と並ぶ大切な概念である「友」=交誼の倫理**を提示するものです。
孟子は、社会秩序や家制度の中で育まれる関係よりも、人格の徳を見極めて築かれる友情こそが理想であると考えていました。
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