大きな徳は、無垢な心を持ち続ける力に宿る
孟子は、「大人(たいじん)=真に徳を備えた人」とはどのような人かを、たった一つの比喩で示した。
それが、赤子(あかご)=赤ん坊である。
つまり、大徳の人とは、赤ん坊のような純粋な心、損得や打算を知らない無垢なままの心を失わない者である、と。
赤子は誰をも疑わず、見返りを求めず、まっすぐに世界と向き合う。
その心は極めて脆く、同時に最も強い――それを保つには、深い自己修養と境地が必要とされる。
大人になるとは、知識や経験を積むことではなく、成長の中で「赤子の心」を守り抜くことである。
孟子はそれを、「大徳」の証と見なした。
原文(ふりがな付き)
孟子(もうし)曰(いわ)く、
大人(たいじん)たる者(もの)は、
其(そ)の赤子(せきし/あかご)の心(こころ)を失(うしな)わざる者なり。
注釈
- 大人(たいじん):真の人格者。徳と義を備えた存在。
- 赤子の心:赤ん坊のような無垢な心、純真、信頼、素直さ。外界に染まらぬ本質。
- 類似語句:
- 老子『道徳経』:「含徳之厚、比於赤子」―「徳を厚く含む者は、赤子に比すべし」
- 王陽明(陽明学)も「良知(りょうち)=人が本来持つ純粋な善」を重視。
心得の要点
- 真に徳のある人ほど、無垢で素直な心を忘れない。
- 成長や知識が、純粋さを曇らせてはならない。
- 見返りを求めず、まっすぐに人と物事に向き合う勇気を持つ。
- 赤子の心は弱さではなく、最も強く崇高な徳の源である。
パーマリンク案(スラッグ)
- heart-of-a-child(子どものような心)
- purity-sustains-greatness(純真さが偉大さを支える)
- never-lose-your-innocence(純粋さを失うな)
この章は、道徳やリーダーシップにおいて「清らかさこそが真の強さである」という根源的な価値を示します。
原文:
孟子曰:
大人者、不失其赤子之心者也。
書き下し文:
孟子(もうし)曰(いわ)く、
大人(たいじん)なる者は、其(そ)の赤子(せきし)の心(こころ)を失(うしな)わざる者なり。
現代語訳(逐語/一文ずつ訳):
- 「大人なる者は」
→ 真に徳のある立派な人物とは、 - 「其の赤子の心を失わざる者なり」
→ 生まれたばかりの赤子(=無垢で誠実な心)を失わない人である。
用語解説:
- 大人(たいじん):道徳的に完成された人物、人格者、真のリーダー。
- 赤子(せきし):生まれたばかりの子ども。純粋無垢、自然な善意の象徴。
- 赤子の心:打算のない誠実さ、無邪気さ、真っ直ぐな心、分け隔てのない慈しみ。
全体の現代語訳(まとめ):
孟子はこう言った:
「真の人格者とは、生まれたばかりの赤子のような純粋で誠実な心を決して失わない者のことである。」
解釈と現代的意義:
この章句は、孟子が提唱する“性善説”の核心を象徴するものです。
孟子は、人は本来善であり、その根本にある「惻隠の情(そくいんのじょう)=思いやり・あわれみの心」を持って生まれてくると考えました。
そして「大人」とは、その人間が本来持っていた“赤子の心”=純粋な善意や誠実さを、大人になっても保ち続けている人だというのです。
それは、無邪気であるという意味ではなく、打算や私利私欲に染まらず、真心と正直さを貫くことの大切さを表しています。
ビジネスにおける解釈と適用:
- 「純粋な動機こそ、信頼を生む」
周囲を見て行動を変えたり、損得で態度を決める人ではなく、心から誠実に行動する人が最も信頼される。 - 「立場が上がっても、“原点の心”を忘れるな」
昇進したり、権限を得たりすると、初心を忘れがち。
リーダーであるほど、“赤子の心”──素直さ、思いやり、公平さを忘れてはならない。 - 「複雑な時代こそ、“まっすぐな心”が道を拓く」
不正や駆け引きの多い現代社会の中で、変わらない正しさや誠意を持つ人材こそが、周囲の羅針盤となる。
ビジネス用心得タイトル:
「赤子の心を胸に──誠実さと純粋さが、真の信頼とリーダーシップを育てる」
この章句は、人間性・リーダーシップ・企業文化の根本を見直すうえで非常に大切な指針です。
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