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君の礼遇が厚いと臣もそれに応えるようになる

目次

厚く遇すれば、深く報いられる――信義は礼をもって育つ

斉の宣王は、礼における「旧君(かつて仕えた主君)への服喪」について孟子に尋ねた。
孟子は、「君が本当に臣を礼をもって遇するならば、たとえ関係が絶たれた後でも、臣はその恩義に報い、君の死に喪に服する」と答えた。

その条件とは、以下のような手厚い対応である:

  1. 臣の**諫言(かんげん)**が尊重され、その実行が民に恩恵を与えたこと。
  2. 臣がやむなく国を去る際、君が国境まで人を遣わして送り出すこと。
  3. 新天地での仕官に困らぬよう、君が先回りして便宜を図ること。
  4. 臣が三年間戻らなかった後に、ようやくその田地や住居を回収すること。

このような誠意ある対応を「三有礼(さんゆうのれい)」と呼ぶ。
ここまでの待遇があってこそ、臣は深い恩義を感じ、主君の死にあたって自発的に喪に服するという強い信頼関係が成り立つのである。

注釈

  • 旧君(きゅうくん):かつて仕えていた主君。現主君ではないが、恩義の対象。
  • 諫(かん):主君への忠告や進言。
  • 膏沢(こうたく):「膏」は油、「沢」は水。いずれも潤すもののたとえで「恩恵」を意味する。
  • 三有礼(さんゆうのれい):「送別の導き」「新天地での便宜」「三年後の回収」という三つの礼節。
  • 田里(でんり):田畑と住居。

心得の要点

  • 主君が臣を真心から尊重し、礼を尽くせば、臣は死後にまでも恩義を忘れない。
  • 儀礼だけではなく、実際の行動と継続した配慮が「信」の証となる。
  • 主従関係は、一方的な命令や上下ではなく、互いの誠意と敬意により成立するもの。
  • 本当に人が動くのは、制度や命令ではなく、心に届く信頼と扱いの深さによる。

原文

王曰、「禮爲舊君有服、何如斯可爲之矣?」
曰、「諫行、言聽、膏澤下於民、故而去、則君使人之出疆、又先於其所、去三年不反、然後收其田里、此之謂三有禮焉、如此則爲之矣。」

書き下し文

王(おう)曰(いわ)く、「礼(れい)に旧君(きゅうくん)のために服(ふく)する有(あ)り、と。何如(いかん)なれば斯(こ)れ為(た)めに服すべきや。」
曰く、「諫(かん)行(おこな)われ、言(げん)聴(き)かれ、膏澤(こうたく)民(たみ)に下(くだ)る。故(ゆえ)ありて去(さ)れば、則(すなわ)ち君、人をして之(これ)を出疆(しゅつきょう)せしめ、又(また)其(そ)の往(ゆ)く所に先(さき)んず。去って三年反(かえ)らざれば、然(しか)る後(のち)に其の田里(でんり)を収(おさ)む。此(こ)れを之(これ)三(さん)有(ゆう)の礼(れい)と謂(い)う。此の如(ごと)くなれば則ち之(これ)が為(た)めに服す。」

現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「王曰く、礼に旧君のために服する有り、と。何如なれば斯れ為に服すべきや。」
     → 王が言った。「礼において、昔の君主のために喪に服すと聞いたが、どのような条件ならばそれがふさわしいのか?」
  • 「曰く、諫行われ、言聴かれ、膏沢民に下る」
     → 孟子は答えた。「その者の諫言が実際に受け入れられ、その意見が聞き入れられ、恩恵が民に及んだのであれば」
  • 「故ありて去れば、則ち君、人をして之を出疆せしめ、又其の往く所に先んず」
     → 「やむを得ぬ理由でその臣が去る場合には、君主が人を遣わして国境まで送り、さらに行く先にも前もって人を送る」
  • 「去って三年反らず、然る後にその田里を収む」
     → 「去ってから三年たっても戻らなければ、ようやくその田地を収める(取り上げる)」
  • 「此れを之三有の礼と謂う」
     → 「これを“三有の礼(礼儀の三条件を備えたもの)”という」
  • 「此の如くなれば則ち之が為に服す」
     → 「このようであれば、旧君のために喪に服するにふさわしいと言える」

用語解説

  • 旧君(きゅうくん):かつて仕えた主君。退位・死去・離任後の君主。
  • 諫(かん):忠告・諫言。君主に道を誤らせないための意見。
  • 膏澤(こうたく):恩恵や潤い。政治的恩恵が民にまで行き届くこと。
  • 出疆(しゅつきょう):国境の外まで見送ること。深い敬意の象徴。
  • 田里(でんり):領地や私有地。これを取り上げる=その地位・財産を没収すること。
  • 三有の礼(さんゆうのれい):「諫言が行われ、言葉が聴かれ、恩恵が民に下る」という三つの徳を備えた者への敬礼。

全体の現代語訳(まとめ)

斉の王が孟子に尋ねた。
「礼において、以前の主君のために喪に服することがあると聞いたが、それはどのような場合にふさわしいのか?」

孟子は答えた。
「その君が家臣の進言を取り入れ、その言葉に耳を傾け、政治によって民に恩恵が行き渡っていたならば――
その家臣が去る時、君は人を遣わして国境まで見送り、行き先にも人を遣って支援し、
その者が三年経っても帰らなかった場合にようやくその田地を処分する。
これが“三つの徳”を備えた礼である。
このように敬意を持って扱われたならば、その旧君のために喪に服することもふさわしいと言えるのだ。」

解釈と現代的意義

孟子はこの章で、**「喪に服す=形式的な忠誠」ではなく、「相応の人間関係と実績があってこそ、心からの尊敬は成立する」**と述べています。

これは、ただ過去の肩書きや名声のみによって尊敬や忠義を示すのではなく、相手が本当に敬意を払うに値する存在であったかが基準であるという、人間関係の本質的な洞察を表しています。

信頼とは一朝一夕で築けるものではなく、言葉が聞かれ、行動が受け入れられ、結果が社会に貢献してこそ得られるものであるということを、礼の儀式という観点から明らかにしているのです。

ビジネスにおける解釈と適用

  • 「地位より実績。肩書きより信頼関係。」
     人は、ただ“元上司”だからといって尊敬し続けるのではない。信頼と実績が伴ったリーダーであったかどうかが、退任後も敬意を受けるかどうかを決める。
  • 「信頼されるリーダーの条件:進言を受け入れ、成果で応える」
     部下の意見を取り入れ、組織に実利をもたらしたリーダーは、去った後でも敬意を払われる。
     支配するのではなく、信頼を築くことでのみ“喪に服される価値”が生まれる。
  • 「退職後に人が残すのは“地位”でなく“敬意”」
     会社を去った後も「また一緒に働きたい」と思われる人とは、地位による上下ではなく、人格と実績で信頼を築いた人である。

ビジネス用心得タイトル

「去っても敬われる人間に──信頼と実績が“真のリーダー”の証」

この章句は、人事評価や組織文化、リーダー育成にとって極めて示唆に富んでいます。

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