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誠を尽くせば、必ず人の心は動く

孟子は、人が他人を動かすには、まず自分が「誠=まこと」を尽くすことが不可欠であると説く。
自分が誠実でなければ、他人を感化することはできず、どれほどの言葉や地位も空虚に終わる。

孟子は、信頼と誠の連鎖構造を丁寧に説き明かす:

  1. 下の者が上に信頼されなければ、民を治めることはできない。
  2. 上に信頼されるには、まず友人・仲間から信頼されていなければならない。
  3. 友人からの信頼を得るには、まず親に仕えて悦ばれていなければならない。
  4. 親に悦ばれるには、自らを省みて「誠」でなければならない。
  5. そして、自らを誠にするには、「善とは何か」を明らかにしようと努めることが必要である。

こうして誠は、**「天の道=自然の摂理」であり、それを志すことは「人の道」**である。
孟子は断言する:

至誠(しせい)を尽くして、それでも人の心が動かないということは、未だかつて一度もない。
逆に、誠がなければ、誰一人として動かすことなどできない。

この言葉は、明治維新の精神的支柱となった吉田松陰も座右の銘として愛し、門下生に伝えたという逸話からも、その力強さと信念の深さがうかがえる。


目次

原文(ふりがな付き)

孟子(もうし)曰(いわ)く、

下位(かい)に居(お)りて上(かみ)に獲(え)られざれば、民(たみ)得(え)て治(おさ)むべからざるなり。

上に獲らるるに道(みち)有(あ)り。
友(とも)に信(しん)ぜられざれば、上に獲られず。

友に信ぜらるるに道有り。
親(おや)に事(つか)えて悦(よろこ)ばれざれば、友に信ぜられず。

親に悦ばるるに道有り。
身(み)に反(かえ)りて誠(まこと)ならざれば、親に悦ばれず。

身を誠にするに道有り。
善(ぜん)に明(あき)らかならざれば、其(そ)の身を誠にせず。

是(こ)れの故(ゆえ)に、誠は天(てん)の道なり。
誠を思(おも)うは、人(ひと)の道なり。

至誠(しせい)にして動(うご)かざる者は、未(いま)だ之(これ)有(あ)らざるなり。
誠ならずして、未だ能(よ)く動かす者は有らざるなり。


注釈

  • 誠(まこと):嘘や偽りのない真心。人の本質的な徳。
  • 至誠(しせい):完全無欠な誠。誠の極致。自分の全存在をもって尽くす誠。
  • 天の道/人の道:宇宙の法則と人間の道徳的努力。それぞれ自然と倫理を示す。
  • 善に明らかならざれば…:何が善であるかを追求しなければ、真に誠を持つことはできない、という教え。

パーマリンク案(英語スラッグ)

  • sincerity-moves-hearts(誠は心を動かす)
  • 至誠-never-fails(至誠にして動かざる者なし)
  • true-sincerity-is-unshakable(誠は揺るぎない力)
  • no-trust-without-truth(誠なき者、信を得ず)

この章は、孟子が思想の中で最も大切にしていた**「誠」=人格と道徳の源**を説いた、極めて重要な教訓です。
「至誠にして動かざる者は、未だ之れ有らざるなり」――この言葉は、どの時代にも通じる力を持っています。

原文

孟子曰、居下位而不獲於上、民不可得而治也。獲於上有道、不信於友、弗獲於上矣。
信於友有道、事親弗悅、弗信於友矣。悅親有道、反身不誠、不悅於親矣。
不見不明乎善、不誠其身矣。是故誠者、天之道也;思誠者、人之道也。
至誠而不動者、未之有也;不誠、未有能動者也。


書き下し文

孟子曰(いわ)く、
下位に居して上に獲(え)られざれば、民を得て治むべからざるなり。
上に獲らるるに道(みち)有り。友に信ぜられざれば、上に獲られず。

友に信ぜらるるに道有り。親に事えて悦(よろこ)ばれざれば、友に信ぜられず。
親に悦ばるるに道有り。己(み)に反して誠(まこと)ならざれば、親に悦ばれず。

身を誠にするに道有り。善に明らかならざれば、其の身を誠にせず。

是の故に、
誠なるは天の道なり。誠を思うは人の道なり。
至誠(しせい)にして動かざる者は、未(いま)だ之有らざるなり。
誠ならずして能(よ)く動かす者は、未だ有らざるなり。


現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 孟子は言った:
    • 下の立場にあって、上司や上の者に信頼されなければ、民を治めることはできない。
    • 上に信頼されるには道がある。友人に信用されない者は、上にも信頼されない。
    • 友に信用されるにも道がある。両親に仕えて喜ばれない者は、友人にも信頼されない。
    • 両親に喜ばれるにも道がある。自分を省みて、誠実でなければ、親に喜ばれることもない。
    • 自分を誠実にするには道がある。「善(よいこと)」を見極めていなければ、誠実な行いはできない。
  • よって:
    • 誠実さ(誠)は、天が与えた普遍の道である。
    • 誠を志すことこそ、人が歩むべき道である。
    • 真に誠実であれば、相手を動かさないことなどあり得ない。
    • 誠実でない者が、人を動かすことは、決してできない。

用語解説

用語解説
獲於上上の者(上司・上位者)に評価・信任されること。
信於友友人から信用されること。
悅於親親に喜ばれること。
反身自分を内省し、振り返ること。
誠(まこと)嘘偽りのない真心、内面と行動の一致。
道徳的によいこと、正しい行い。
至誠完全な誠、限りなく真摯な心。
動かす相手の心を動かす、信頼や共感を得ること。

全体の現代語訳(まとめ)

孟子はこう語った:

下位の者が、上位の者から信頼を得ていなければ、
民(部下・組織・顧客)を治めることなどできない。

ではどうすれば上から信頼されるのか?
それは、まず友人たちからの信用を得ることである。
そして、友人に信頼されるには、まず親に仕えて喜ばれる人間であることが必要だ。

さらに、親に喜ばれるにはどうするか?
自分自身を省みて、誠実であること。

そして、誠実であるには、何が“善い”ことであるかを見極める目がなければならない。

だからこそ──
「誠実であること」は、天から与えられた普遍の法則であり、
それを志すことは、人としての正しい生き方である。

真に誠実であれば、相手の心を動かせないことは絶対にない。
反対に、誠実さがなければ、誰かを動かすことなど、決してできないのだ。


解釈と現代的意義

この章句は、孟子が一貫して重視する「誠(まこと)」の徳を、
組織論・人間関係・倫理の連鎖構造として鮮やかに描いています。

1. 信頼の連鎖は「身近な誠実さ」から始まる

  • 上司からの信頼、部下からの支持、社会での影響力…
    これらは、最終的には「自分自身の誠実さ」に行き着く。

2. 「小さな誠」を積み重ねることが「大きな信頼」を生む

  • 友人や家族、目の前の人への誠実さが、やがて上司・組織・社会を動かす力になる。

3. 誠とは“動かす力”である

  • 真に誠を尽くせば、人は必ず動く。
    感動・共感・信頼は、誠によって生まれる。

ビジネスにおける解釈と適用

1. 上司の信頼を得たいなら、同僚や家族を大切にせよ

  • 直属の上司からの評価を得たければ、まず日々の周囲への誠実な対応が鍵。
  • 人としての誠実さは、全方向に通じる。

2. “誠実さ”は、最も強い影響力の源である

  • 話術や交渉力ではなく、誠のある人間性こそが、心を動かす。
  • “本気”で向き合うことが、相手を突き動かす。

3. 誠を忘れた成果主義は、長続きしない

  • 数字や結果だけを追い求め、誠実さを欠いた組織は、いずれ崩壊する。
  • 「何を為したか」以上に、「どう向き合ったか」が問われる時代へ。

ビジネス用心得タイトル

「信頼は誠から生まれ、誠なくして誰も動かせない──誠実の連鎖が組織を動かす」


この章句は、ビジネスにおける“信頼の本質”を説いた極めて実践的かつ哲学的な内容です。

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