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王道とは、民のために正義を貫くこと

― 利を求めず、義によって動く政治の本質

弟子の万章(ばんしょう)は、宋という小国が王道の政治を行おうとしていることについて問うた。
「しかし、強国である斉や楚がそれを憎み、攻めてきたらどうすべきでしょうか」と。

孟子は、殷の始祖・湯王と葛の国との逸話を語り、王道の本質を示す。

湯王は亳(はく)にいたとき、隣国の葛の非道に対しても、最初は誠意と礼を尽くして対応した。
葛伯が祖先を祀らない理由を尋ねると「いけにえがない」と言う。湯王は牛や羊を与える。
しかし葛伯はこれを食べてしまい、なお祭祀を行わない。今度は「穀物がない」と言う。
湯王は自国の若者たちを耕作に向かわせ、老人や子どもにも弁当を届けさせた。

だが葛伯は、民を使ってその食料を奪い、渡さぬ者は殺し、ついには弁当を運んでいた一人の子どもまで殺した
これにより、湯王はついに葛を討つ決断をする。
しかし、それは私利や国の繁栄のためではなく、罪なき者の命を奪ったことに対する義の実行=復讐であった。

「四海の内、皆曰く、天下を富ましめんとするに非(あら)ざるなり。匹夫匹婦の為に讎(あだ)を復するなり」
― 天下の人々は、これは富を得るためでなく、無実の民の恨みを晴らす正義の行動だと称賛した

孟子はこの故事によって、王道とは決して大義の名を借りた覇道(利得の追求)ではなく、**民の苦しみに心を寄せ、正義によって行動する姿勢こそが本物の「王政」**だと説いている。


原文(ふりがな付き引用)

「四海(しかい)の内(うち)、皆(みな)曰(い)わく、天下(てんか)を富(と)ましめんとするに非(あら)ざるなり。匹夫匹婦(ひっぷひっぷ)の為(ため)に讎(あだ)を復(ふく)するなり」


注釈

  • 王政・王道(おうせい・おうどう)…仁と義に基づいた政治。私利や勢力拡大を目的としない。
  • 葛伯(かつはく)…隣国の君主。祭祀を怠り、略奪と殺人を重ねる暴君。
  • 犠牲・粢盛(ぎせい・しせい)…祖先に供えるための動物・穀物。古代では国家祭祀の中心。
  • 饋る・餉る(おくる)…食物を持っていくこと。遠征者への弁当のようなもの。
  • 匹夫匹婦(ひっぷひっぷ)…名もなき庶民。ここでは、理不尽に殺された子どもを象徴。

パーマリンク候補(英語スラッグ)

  • true-royal-way-is-righteousness(真の王道は義にあり)
  • justice-not-gain(求めるは利でなく正義)
  • avenge-the-innocent(無実の民のために討つ)

この章では、孟子の王道政治観の根幹が語られます。
利によらず、仁義に基づいて民を救う。それが王者の道――孟子の信ずる「王道」の真価です。

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