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善を共にすること、これ君子の最上の道

― 自分の善に固執せず、他人の善を取り入れてともに進め ―

孟子は、歴代の賢者たちの「善の受容と実行」の姿勢を例に挙げて、こう語り始めます。


子路 ― 過ちを指摘されて喜ぶ人

「子路は、他人から自分の過ちを告げられると、喜んでそれを受け入れた」

つまり、批判や忠告を“善意の贈り物”として捉える心の広さがあったのです。


禹王 ― 善言を聞いて拝礼する王

「禹(う)は、よい言葉を聞けば、相手が誰であっても頭を下げて感謝した」

王でありながら、「正しい言葉」に対しては深く敬意を示したその姿は、徳を受け入れる柔軟性と謙虚さの象徴です。


舜帝 ― 善に私心なく従う聖人

孟子は続けて、彼らよりもさらに偉大であった舜(しゅん)帝の姿を描きます:

  • 善いことがあれば、自分の考えにこだわらず、素直に他人に従い、それを取り入れた
  • たとえ相手が自分より身分が低かろうと、善を見つければ即座にそれを取り入れた
  • 自ら農業・陶器づくり・漁業などの仕事に従事しながらも、善を吸収し続け、ついには天子となった

この舜の生き方は、孟子が理想とする「人と善をともにする者(与人為善者)」の極致です。


目次

結論:君子たる者、善を独占せず、共有せよ

孟子はこの教訓を一言にまとめます:

「君子として、他人とともに善を為す以上に偉大なことはない」

  • 自分の善に固執せず、他人の善を取り入れること。
  • 他人の徳に敬意を払い、共に歩むこと。
  • 善を共有する姿勢そのものが、仁と謙の実践であり、君子の本領である

原文(ふりがな付き引用)

「孟子(もうし)曰(い)わく、
子路(しろ)は、人(ひと)之(これ)に告(つ)ぐるに過(あやま)ち有(あ)りを以(も)ってすれば、即(すなわ)ち喜(よろこ)ぶ。
禹(う)は善言(ぜんげん)を聞(き)けば、即ち拝(はい)す。

大舜(だいしゅん)は、焉(これ)より大なる有り。
善(ぜん)、人(ひと)と同(おな)じくし、己(おのれ)を舎(す)てて人に従(したが)い、
人に取りて以(も)って善を為(な)すを楽しむ。

耕稼(こうか)・陶(とう)・漁(ぎょ)より、以(も)って帝(てい)と為(な)るに至(いた)るまで、
人に取(と)るに非(あら)ざる者無し。

諸(これ)を人に取りて以って善を為すは、是(こ)れ人と善を為す者なり。

故(ゆえ)に君子(くんし)は、人と善を為すより大(だい)なるは莫(な)し。」


注釈(簡潔版)

  • 子路:孔子の高弟。過ちを指摘されると素直に喜んだという逸話は、『論語』にも見られる。
  • 禹(う):夏王朝の創始者。治水事業の偉業で知られ、民の言葉に耳を傾けた賢王。
  • 舜(しゅん):堯の後継となった伝説の聖王。徳を積み、庶民から天子へと昇りつめた。
  • 耕稼陶漁:農業・陶器づくり・漁業など、舜が庶民だったころに従事していた職。
  • 与人為善(よじんいぜん):人と共に善を行うこと。儒家思想における最高の徳行の一つ。

パーマリンク(英語スラッグ案)

  • the-greatness-of-shared-goodness(善を分かち合う偉大さ)
  • do-good-with-others(人と共に善を行え)
  • virtue-is-not-solo-work(徳は独りで為すものではない)

この章は、孟子が説く「他者との関係性を通じて完成される仁のかたち」を明確に示しています。
善を独占せず、人とともに歩むことで、それはより大きな徳へと育っていく。
他人の善を認め、それに従い、共に行うこと――それが君子のもっとも偉大な姿であると孟子は断言しています。

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