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苦しむ民には仁が沁みる:徳は、最も速く伝わる力である

目次

― 今こそ、やるべきとき ―

孟子はさらに力を込めて語る。
王者(仁政を行う真の支配者)が現れない状態がこれほど長く続いた時代は、かつてなかった。
また、これほどまでに民が虐政に苦しみ、心身ともに疲弊している時代もなかった。

孟子はこうたとえる。
「飢えた者は何でも食べ、渇いた者は何でも飲む。いまの民はまさにそうした渇望の状態にあるのだ」と。

孔子もかつて言った――
「徳の広まり方は、早馬や飛脚で命令を伝えるよりも速い」。

今のような民が疲れ果てた時代に、斉のような万乗の兵車を有する大国が仁政を行えば、
その感謝と喜びは、まさに“逆さ吊りの苦しみ”から解放されるようなものである。

このようなときに行う仁政は、仮に古の賢者の半分の努力であっても、得られる成果はその倍にもなる。
好機にして最大の転機――孟子はそのように、この時代の特異性と可能性を断言した。

この章は、「待つ時ではなく、動く時である」と、現実に行動することを強く促しています。
仁政の即効性を伝えながら、苦しむ民への想像力と、政治の可能性を同時に語る孟子らしい言葉です。

原文

且王者之不作、未有疏於此時者也。
民之憔悴於虐政、未有甚於此時者也。
飢者易為食、渴者易為飲。
孔子曰、德之流行、速於置郵而傳命。
當今之時、萬乘之國、行仁政、民之悅之、猶解倒懸也。
故事半古之人、功必倍之、惟此時為然。

書き下し文

且(か)つ王者の作(おこ)らざるは、未だ此の時より疏(とお)き者有らざるなり。
民の虐政に憔悴(しょうすい)せるは、未だ此の時より甚しき者有らざるなり。
飢うる者は、食を為すに易く、渇する者は、飲を為すに易し。
孔子曰く、「徳の流行は、置郵(ちゆう)して命を伝うるより速やかなり」と。
今の時に当たりて、万乗の国、仁政を行わば、民の之を悦ぶこと、猶お倒懸(とうけん)を解くがごとし。
故に、事は古の人の半ばにして、功は必ず之に倍せん。惟(た)だ此の時を然りと為す。

現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 今の時代ほど、王者(真の徳ある支配者)が現れていない時代はない。
  • 今の時代ほど、民が苛酷な政治に疲弊している時代もない。
  • 飢えた者には食がありがたく、渇いた者には飲み物がありがたい。
  • 孔子は言った、「徳が広まる速さは、駅伝制度によって命令が伝わるよりも速い」と。
  • 今この時代に、万乗の大国が仁政を行えば、民の喜びは、まるで逆さ吊りから解放されたようなものだ。
  • だからこそ、かつての人々が費やした労力の半分で、成果は倍になる。この時代こそが、もっとも好機なのだ。

用語解説

  • 王者:孟子が理想とする「仁政による支配者」。徳によって天下を治める人物。
  • 虐政(ぎゃくせい):過酷で不正な政治。民を苦しめる支配。
  • 憔悴(しょうすい):心身が衰え、疲れ果てた状態。
  • 置郵(ちゆう)・傳命(でんめい):古代中国の駅伝制度による命令伝達手段。
  • 倒懸(とうけん):逆さ吊りの苦しさの比喩。解放されるときの喜びの象徴。
  • 萬乗の国(ばんじょうのくに):大国。車一万台を動員できるほどの軍事力をもつ国。

全体の現代語訳(まとめ)

いまの世ほど、王者(徳をもって治める人物)が長らく現れていない時代はない。そして、これほど民衆が圧政に苦しみ、疲れ果てている時代もまたない。

だからこそ、飢えている者には食べ物が、渇いている者には水がありがたいように、仁政を行えば即座に民衆の支持を得られるのだ。

孔子も言ったように、徳が広まるのは驚くほど早い。

今、もし大国が仁政を行えば、民衆の喜びは、まるで逆さ吊りの苦しみから解放されるような大きなものとなる。
だからこそ、かつての賢人たちの努力の半分で、彼らの倍の成果を得ることができる。この時代はまさに、最適の好機である。

解釈と現代的意義

この章句は、孟子が「仁政を行う絶好の機会は今である」と強調する力強いメッセージです。

  • 社会の困窮は改革のチャンス
     民が圧政に苦しむほど、善政への期待と反応は大きくなる。民衆の“飢え”は変革の土壌となる。
  • タイミングとニーズの一致
     優れたリーダーシップは、時代の声に応じて現れる。社会が渇望する徳ある統治を行えば、瞬く間に民心を得ることができる。
  • 努力のレバレッジが最大化される好機
     困難な時代には、それに応じた善政が倍の成果を生む。「必要とされているときこそ、最もインパクトを持つ行動ができる」の意義。

ビジネスにおける解釈と適用

「市場が飢えているときこそ、価値提供のチャンス」

顧客が困っている時期(社会不安、価格高騰、品質低下など)は、誠実で質の高いサービスを提供すれば、驚くほどの支持を得られる。まさに“飢えた市場”は、価値の受容性が最大化されている状態。

「“逆境”は事業のレバレッジチャンス」

混乱期・転換期に、理念ある行動を貫けば、少ない投資で大きな成果を出せる。
→ 安定期よりも、困難な時代においてこそ、志ある行動の価値は倍増する。

「共感と信頼が一気に広がる“徳の伝播力”」

顧客の不満が高まっている時代、正しい行動や価値を実直に発信すれば、SNSや口コミを通じて“伝播速度”は飛躍的に高まる。
→ 「徳(理念)」の拡散力は、かつてないほど強く、早い。

まとめ

「民の飢渇に応えよ──“今こそ仁政”の時である」

この章句は、孟子の理想が単なる理論ではなく、「いま行えば成果が出る」という現実的かつ戦略的な確信に満ちていることを示しています。

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